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パートナーシップ構築宣言を製造業が活用する方法

「原材料費もエネルギー費も上がっているのに、価格転嫁の話を切り出しにくい」。中小製造業の経営者・工場長から最もよく聞く悩みの一つです。そんな現場で、実は強力な後ろ盾になるのが「パートナーシップ構築宣言」です。発注側企業が公表しているこの宣言を、受注側である中小製造業がどう活用すれば価格交渉や取引改善に結び付けられるのか。本記事では、宣言の基本的な位置付けから、交渉現場での具体的な使い方、自社が宣言企業になるメリットまで、実務目線で整理します。

パートナーシップ構築宣言とは何か

パートナーシップ構築宣言は、内閣府・中小企業庁・公正取引委員会などが推進する取り組みで、発注側企業が「サプライチェーン全体の共存共栄」と「下請取引の適正化」を宣言し、公式ポータルサイトで公表する制度です。2020年に始まり、宣言企業数は年々増加しています。

宣言の主な内容

宣言企業は、以下のような行動を自社の取引方針として公表します。

  • サプライチェーン全体での付加価値向上と共存共栄の推進
  • 「振興基準」(下請中小企業振興法に基づく国の方針)の遵守
  • 価格決定方法、型・治具の費用負担、知的財産・ノウハウの取り扱い、働き方改革に伴うしわ寄せ防止 など

ポイントは、これらが社長名で対外的に公表されるということです。つまり、宣言企業の取引方針として「労務費や原材料費の上昇分について協議に応じる」ことが事実上のコミットメントになります。

パートナーシップ構築宣言の基本情報を整理した表

なぜ今、中小製造業がこの制度を「使う」べきなのか

公正取引委員会の特別調査(中央値)によれば、コスト別の価格転嫁率は 原材料費80.0%、エネルギーコスト50.0%、労務費30.0% にとどまっており、特に労務費の転嫁が大幅に遅れています。賃上げ原資が確保できなければ、人材確保が難しい中小製造業ほど経営が苦しくなる構造です。

このギャップを埋める仕掛けとして政府が用意しているのが、(1) パートナーシップ構築宣言、(2) 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(2023年11月公表)、(3) 取適法(2026年1月施行)、の3点セットです。宣言は「自主的な取り組み」、指針は「行動の標準」、取適法は「法的後ろ盾」という位置付けで、中小製造業の交渉力を底上げします。

中小製造業の価格交渉を後押しする3つの制度の関係

取引先が宣言企業かを調べる:交渉準備の第一歩

価格交渉の前に、まずやるべきは「主要取引先がパートナーシップ構築宣言を出しているか」を確認することです。公式ポータルサイト(中小企業庁ウェブサイトからアクセス可能)では、企業名・業種・都道府県で検索できます。

確認すべきポイント

  1. 宣言の有無:出している/出していないだけでなく、いつ宣言したかも確認
  2. 宣言文の中身:価格決定方法・型治具費用・知的財産などの記載内容を読み込む
  3. 業界の自主行動計画への参加:多くの業界団体(2025年時点で34業種92団体程度)が自主行動計画を策定しており、宣言企業の多くは参加している

取引先が宣言企業であれば、交渉の場で「御社の宣言文には『労務費上昇分の協議に応じる』との記載がある」と引用できます。一方、宣言を出していない大手取引先に対しては「宣言を出している同業他社では、この水準での協議が標準的になっている」という業界比較の論調が使えます。

価格交渉の場での具体的な使い方

宣言を「知っている」だけでは意味がありません。交渉のテーブルで使い切るためには、根拠資料の組み立て方が重要です。

ステップ1:書面で協議を申し入れる

中小企業庁『価格交渉ハンドブック』が強調するのは、「希望する価格を自ら提示する」「書面で申し入れる」という原則です。発注側からの提示を待っていては交渉は進みません。申入書には、宣言企業であれば宣言文の該当箇所を引用し、「貴社の宣言内容に基づき協議をお願いしたい」と明記します。

ステップ2:公的データを根拠資料にする

労務費であれば最低賃金の上昇率、原材料費であれば貿易統計や企業物価指数(日銀発表)、エネルギーコストであれば資源エネルギー庁のデータなど、第三者が確認できる公的データを根拠にします。労務費転嫁指針でも、発注側は「公表資料に基づく根拠資料を合理的なものとして尊重する」とされています。

ステップ3:自社の原価データで補強する

公的データは「業界全体で何%上がった」を示しますが、最終的に交渉が成立するかは「貴社向けの製品では具体的にいくら影響したか」を示せるかにかかります。ここで案件別の原価データが効きます。工番ごとに材料費・外注費・労務工数を記録できていれば、「この製品は前年比で材料費が18%、労務工数が5%増えており、現価格では赤字案件です」と数値で語れます。

宣言を使わない交渉と使う交渉の違い

ステップ4:取適法と合わせて活用する

2026年1月施行の取適法では、適用対象が資本金基準に加え従業員基準(300人/100人)にも拡大され、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」「手形払等の禁止」など、受注側を保護する規制が追加されました(最新情報は中小企業庁公式サイトでご確認ください)。宣言企業がこの法令に違反する行動を取れば、宣言そのものへの信頼を損ねることになります。中小製造業から見れば、宣言と法令は補完関係にあります。

自社もパートナーシップ構築宣言を出すという選択

ここまで「取引先の宣言を活用する」視点で整理してきましたが、中小製造業自身が宣言企業になるという選択肢もあります。

自社が宣言するメリット

  • 二次・三次下請への価格転嫁を進める根拠になる(自社が部品や材料を発注する側として)
  • 採用や金融機関の評価にプラスに働くケースがある
  • 発注元との関係でも、サプライチェーン全体に取り組む企業として評価される
  • 一部の補助金で加点要素になる場合がある(年度や制度により異なるため、最新情報を確認)

中小製造業の多くは「発注を受ける側」だけでなく「外注先や材料商社に発注する側」でもあります。労務費転嫁指針でも、受注者は「その先の取引先の取引価格を適正化すべき立場にいることを意識する」と明記されています。宣言を出すことは、自社のサプライチェーン全体の健全性を守ることにつながります。

中小製造業がパートナーシップ構築宣言を活用する3つの立ち位置

交渉力の前提となるのは「自社の数字」を持っていること

ここまで述べたとおり、パートナーシップ構築宣言や指針・法令は強力な後ろ盾ですが、最終的に交渉を動かすのは「自社の取引でいくら影響が出ているか」を具体的に示せるかどうかです。逆に言えば、宣言企業相手であっても、自社の数字を持っていなければ協議は空回りします。

中小製造業の現場でよくあるのは、紙の作業日報やExcelで実績を管理しているために、案件ごとの材料費・労務工数・外注費を集計するのに数日かかり、見積と実績の差異分析まで手が回らないという状況です。これでは、いざ交渉の機会が来ても「感覚での値上げ要請」になってしまいます。

価格転嫁を実務として進めるには、まず製造業の価格転嫁の交渉術製造業の値上げ交渉タイミングで扱った交渉プロセスを参考にしつつ、案件別の原価データを「いつでも引き出せる状態」にしておくことが鍵です。具体的な進め方は原材料費高騰の価格転嫁労務費の価格転嫁 製造業の進め方でも整理しています。

Factory Advanceで「交渉の根拠データ」を整える

クラウド型生産管理システム「Factory Advance」は、個別受注生産・多品種少量生産を中心とする中小製造業向けに、見積から実績、案件別収益までを一元管理できる仕組みを提供しています。

価格交渉の文脈で特に役立つのは、以下の機能です。

  • 案件(工番)別の原価集計:材料費・外注費・労務工数を案件単位で自動集計し、見積と実績の差異が一目で分かる
  • アワーレートの根拠管理:労務費・設備費のチャージレートを自社の決算データから算出し、コスト上昇時の改定根拠として残せる
  • 見積〜実績〜差異のサイクル:見積試算→実績登録→差異分析→見積レート再計算という収益向上サイクルを回せる

宣言企業と交渉する際に「この製品は労務工数が5%増えています」「材料費は18%上昇しています」と工番単位で根拠を提示できれば、協議の進み方が大きく変わります。詳しくはFactory Advance公式サイト、機能や料金はシステム詳細ページをご覧ください。

まとめ

パートナーシップ構築宣言は、中小製造業にとって「読むだけの制度」ではなく、価格交渉と取引改善のテーブルで実際に「使う」ための仕掛けです。本記事のポイントを整理します。

  • 取引先が宣言企業かを公式ポータルで確認し、宣言文を読み込む
  • 書面で協議を申し入れ、宣言文・公的データ・自社原価データの3点セットで根拠を組み立てる
  • 取適法(2026年1月施行)や労務費転嫁指針と組み合わせて交渉力を強化する
  • 中小製造業自身が宣言を出し、サプライチェーン全体の取引適正化を進める選択肢もある
  • 最終的に交渉を動かすのは「自社の案件別原価データ」。これを整える仕組みづくりが先決

価格転嫁は単発のイベントではなく、見積〜実績〜差異分析〜改定という継続的なサイクルです。制度の追い風を活かしながら、自社の数字を持つ仕組みを着実に整えていきましょう。

参考文献

投稿者プロフィール

尾畠 悠樹
尾畠 悠樹
株式会社イーポート 代表取締役

■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
  デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者

兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。