製造業の7つのムダ削減で利益が出ない理由|撲滅すべき「8番目のムダ」とは
目次
「7つのムダ」削減に励んでも、なぜか利益が残らない…
「トヨタ生産方式の7つのムダ削減に取り組んでいるのに、一向に利益が増えない」「現場は頑張ってコストダウンしているはずなのに、会社のキャッシュはなぜか減っていく…」多くの個別受注・多品種少量生産の中小製造業の経営者様から、このような切実なご相談をいただきます。現場の努力が利益に結びつかない状況は、経営者として極めて深刻な問題であり、社員の士気にも関わります。実は、この問題の根源は、現場の「7つのムダ」そのものではなく、多くの経営者が見過ごしている「8番目のムダ」にあります。本記事では、利益に直結するムダ削減の本質を解き明かし、貴社の収益構造を根本から変えるための具体的なアプローチを徹底解説します。
トヨタ生産方式「7つのムダ」とは何か?
まず、基本の確認から始めましょう。トヨタ生産方式で定義される「7つのムダ」とは、製品の生産プロセスにおいて付加価値を生まない、排除すべき活動のことです。これらを削減することが、現場の生産性向上、すなわち製造原価の低減に繋がるとされています。
トヨタ生産方式における7つのムダ
| ムダの種類 | 具体例 |
|---|---|
| 1. 加工のムダ | 必要以上の品質、過剰な設計、不要な工程 |
| 2. 在庫のムダ | 過剰な原材料、仕掛品、完成品。キャッシュフローを圧迫する |
| 3. 作りすぎのムダ | 需要を上回る生産。在庫増、運搬、保管コストの原因となる |
| 4. 手待ちのムダ | 作業者の段取り待ち、材料待ち、機械の停止待ち |
| 5. 運搬のムダ | 不要なモノの移動、仮置き、積み替え |
| 6. 動作のムダ | しゃがむ、探す、持ち替えるなど、付加価値を生まない動き |
| 7. 不良・手直しのムダ | 不良品の製作、修正、再検査にかかる材料、時間、労力 |
多くの工場では、これらのムダを無くすために5S活動やカイゼン活動に懸命に取り組んでいます。しかし、ここで経営者は一つの重大な事実に直面しなければなりません。それは、「現場の原価低減活動だけでは、会社全体の利益は必ずしも増えない」という、にわかには信じがたい現実です。
なぜ「7つのムダ」削減だけでは利益が増えないのか?
「ムダを無くせばコストが下がり、利益が増えるはずだ」と考えるのは、一見すると論理的に正しいように思えます。しかし、ここには会計上の大きな落とし穴、「部分最適の罠」が潜んでいます。
原価計算のからくりと「部分最適」の限界
例えば、現場の改善活動によって、ある製品の加工時間が10%短縮されたとします。これにより、その製品の「製造原価計算書」上の労務費は確かに下がるでしょう。しかし、会社全体で考えたとき、その削減された時間で別の付加価値を生む仕事がなければ、工場全体の総労務費(固定費)は1円も減りません。つまり、個別の原価計算上の数字が改善されても、会社全体の損益計算書(P/L)の利益は変わらないのです。
コンサルタントの故・一倉定氏が喝破したように、個々の製品の原価だけを追い求める「部分最適」の考え方は、時に会社全体の利益を見失わせます。現場がどれだけ努力して「7つのムダ」を削減しても、その努力が会社全体の利益にどう繋がるのかという視点がなければ、その成果は空振りに終わってしまう可能性が高いのです。これが、多くの製造業が陥る「頑張っているのに儲からない」構造の正体です。
利益を蝕む真犯人 – 8番目の「機会損失のムダ」
では、本当に撲滅すべきムダとは何でしょうか。「8番目のムダ」、すなわち「儲かる仕事と儲からない仕事を見極められず、貴重な経営資源(ヒト・モノ・カネ・時間)を不採算案件に浪費してしまう『機会損失のムダ』」もあるのではないでしょうか。
この「8番目のムダ」は、現場の目に見えるムダとは異なり、経営判断の根幹に潜んでいます。そして、その最大の発生源こそが、多くの中小製造業に蔓延する「どんぶり勘定」という深刻な経営課題なのです。
例えば、あなたは「赤字の仕事は絶対に受けるな」と指示していませんか?しかし、一倉定氏の「増分(ましぶん)計算」の考え方に基づけば、たとえ個別に見れば赤字の案件でも、会社全体の固定費を回収し、利益を増やす「おいしい仕事」である場合があります。この判断を誤ることこそが、会社にとって最も致命的な「機会損失のムダ」なのです。
「8番目のムダ」を生み出す「どんぶり勘定」という病
多くの中小製造業の経営者様は、自社の製品やサービスの正確な原価を把握できていません。特に個別受注生産では、案件ごとに仕様が異なるため、原価計算はより複雑になります。
よくある「どんぶり勘定」の見積り
「見積りは、材料費と外注費に、経験と勘で出した加工賃を乗せて、最後に適当な管理費を上乗せしている」という話をよく聞きます。アワーレート(時間あたり工賃)の根拠を尋ねると、「昔からこうだから」「これくらいでないと受注できないから」といった答えが返ってくることも少なくありません。これでは、その仕事が本当に儲かっているのか、それともやればやるだけ赤字を垂れ流しているのか、全く判断できません。
見積り方法の比較
項目
- 材料費・外注費
- 労務費
- 設備費
- 間接経費・販管費
- 利益
- 結果
どんぶり勘定の見積り
- 仕入先からの見積もり
- 経験と勘に基づく加工賃(アワーレート×時間)
- 加工賃に曖昧に含まれるか、考慮外
- 製造原価の数%など、曖昧な率で上乗せ
- 最後に『えいや』で乗せる
- 案件ごとの正確な採算が不明。価格交渉の根拠も弱い。
あるべき原価積み上げ式の見積り
- 仕入先からの見積もり
- 決算書から算出した客観的な労務費チャージレート×標準工数
- 決算書から算出した客観的な設備費チャージレート×機械稼働時間
- 決算書から算出したレートに基づき、合理的に配賦
- 目標利益率に基づき、戦略的に設定
- 案件ごとの採算が明確。根拠ある価格提示が可能。
※実際の見積作成時には、見積用のレート(賃率)を使ったほ方が便利です。
この「どんぶり勘定」の根本原因は、多くの工場で「売上を管理する仕組み」と「原価を管理する仕組み」が完全に分断されていることにあります。受注データと、現場で実際にかかった原価データが紐づいていないため、案件単位の正確な利益が見える化されていないのです。これでは、「8番目のムダ」が蔓延するのは当然と言えるでしょう。
脱・どんぶり勘定! 正確な収益把握への3ステップ
「8番目のムダ」を撲滅し、利益の出る体質へと転換するためには、まず自社の収益構造を正確に「見える化」することから始めなければなりません。そのための具体的な3ステップを解説します。
ステップ1:会社の「ものさし」を作る – 各種レートの算出
まず、客観的で信頼できる原価計算の「ものさし」を作ります。これは、経験や勘ではなく、自社の決算書(損益計算書や製造原価報告書)の数値に基づいて算出します。算出するべき主要なレートは以下の通りです。
- 労務費チャージレート:直接工の人件費を、実際の稼働時間で割ったもの。
- 設備費チャージレート:設備の減価償却費やメンテナンス費用を、設備の稼働時間で割ったもの。
- 間接費レート:製造に直接関わらない間接部門の人件費や工場経費などを、直接製造経費に対する比率で算出。
- 販管費レート:営業や管理部門の費用などを、製造原価に対する比率で算出。
これらのレートを一度計算しておくことで、誰が計算しても同じ結果になる、公平で客観的な原価計算の土台ができます。
ステップ2:案件ごとの「本当の儲け」を見える化する
次に、ステップ1で算出した各種レートを用いて、個別の案件にかかる費用を積み上げ、正確な「見積原価」を算出します。見積価格からこの見積原価を差し引くことで、その案件から得られる「目標営業利益」が明確になります。これにより、「どの製品が、どれだけ儲かる(あるいは儲からない)のか」が一目瞭然となります。
ステップ3:会社全体で考える – 一倉定氏の「増分(ましぶん)計算」
最後のステップが最も重要です。それは、個々の案件の採算性だけで受注の可否を判断するのではなく、「その仕事を受けることで、会社全体の利益がいくら増えるのか(減るのか)」という「増分」の視点で判断することです。
この考え方に基づくと、製品は以下の4つに分類できます。どの製品に注力し、どの製品から撤退すべきか、戦略的な判断が可能になります。
一倉定式・収益性分析による製品分類と対応方針
| 製品分類 | 特徴(時間あたり付加価値) | 基本的な対応方針 |
|---|---|---|
| 健康製品 | 必要賃率を大幅に上回る | 最優先で拡販すべき、会社の稼ぎ頭。 |
| 貧血製品 | 必要賃率と損益分岐賃率の間 | 生産性を向上させ、健康製品への転換を目指す。 |
| 擬似出血製品 | 損益分岐賃率を下回るが、外部支払よりは高い | 固定費回収には貢献。値上げ交渉やコスト削減が急務。 |
| 真正出血製品 | 外部支払(材料費+外注費)すら下回る | 即刻、受注を停止すべき。やればやるだけ赤字。 |
このように、正確な収益把握は、どの仕事に貴重なリソースを投入すべきかという、経営の最重要判断に強力な羅針盤を与えてくれるのです。
「7つのムダ」と「8番目のムダ」を同時に叩く
ここまで読むと、「結局、現場の7つのムダ削減は意味がないのか?」と思われるかもしれません。答えは「ノー」です。むしろ、「8番目のムダ」を撲滅して初めて、現場の「7つのムダ」削減活動が真に意味を持つのです。
例えば、「手待ちのムダ」や「動作のムダ」を削減し、稼働率が向上すれば、労務費チャージレートの分母が大きくなり、レート自体が下がります。これにより価格競争力が高まります。
「不良・手直しのムダ」を削減すれば、材料費や追加工数が減り、個別案件の利益が直接的に改善されます。
つまり、正確な収益構造を把握するという土台があって初めて、現場のカイゼン活動が「いくらの利益向上に繋がったのか」を明確に測定できるようになります。目標が具体的になり、成果が正しく評価されることで、現場のモチベーションは飛躍的に高まるでしょう。
継続的な利益向上のために「収益改善サイクル」を回す
収益構造の見える化は、ゴールではなくスタートです。重要なのは、この活動を一過性で終わらせず、継続的に利益を生み出す「仕組み」として定着させることです。そのために不可欠なのが「収益改善サイクル」です。
収益改善サイクル(PDCA)
このサイクルを回し続けることで、見積精度は向上し、現場の課題は自ずと明らかになり、会社は筋肉質な利益体質へと変わっていきます。しかし、多くの中小製造業では、日々の実績データを収集・集計する仕組みが整っておらず、Excelでの管理には限界があるのが実情です。
まとめ:本当のムダを撲滅し、利益の出る工場へ
本記事で解説したように、現場の「7つのムダ」削減だけを追い求めても、会社の利益は増えません。本当に撲滅すべきは、どんぶり勘定が生み出す「8番目のムダ=機会損失のムダ」です。
そのためには、まず自社の収益構造を正確に「見える化」すること。そして、どの仕事が本当に儲かるのかを見極め、そこに経営資源を集中させること。この大原則に立ち返ることこそが、貴社を「忙しいだけで儲からない」状況から脱却させ、持続的な成長軌道に乗せる唯一の道です。
この複雑な収益計算や改善サイクルの実践は、手作業や従来のExcel管理では多大な労力と時間を要します。個別受注・多品種少量生産の中小製造業に特化したクラウドサービス「Factory Advance」は、案件ごとの正確な収益を見える化し、貴社の「時間あたり付加価値」の向上を強力に支援します。どんぶり勘定から脱却し、データに基づいた経営判断を実現したいとお考えの経営者様は、ぜひ一度、下記の資料請求から詳細をご確認ください。
参考文献
- 一倉定 (2004) 『増収増益戦略―実践経営塾 必須教科 (一倉定の社長学シリーズ 第5巻)』 日本経営合理化協会出版局
- 株式会社イーポート (2023) 『中小製造業向け 収益管理実践ガイド』
- 照井清一 (2017) 『あなたの会社は原価計算で損をする』 日本実業出版社
投稿者プロフィール

-
株式会社イーポート 代表取締役
■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者
兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。
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