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製造業の平準化|山積み山崩しで利益最大化

「先月は残業続きで現場が悲鳴を上げていたのに、今月は手が空いている社員が出始めた」。中小製造業の経営者・工場長から、こうした声をよく聞きます。受注の山と谷が大きく、能力に対して仕事が偏ることで、残業代の増加、外注費の急増、不良の発生、納期遅延が重なり、結果として利益が削られていく。本記事では、生産の波を平らにする「平準化」を、山積み・山崩し・計画在庫の3つの道具で実現する方法を、図表とともに整理します。

製造業で平準化が必要とされる背景

受注の波と能力ギャップが利益を削る

中小機構の景況調査によれば、中小製造業の売上高・採算ともに変動幅が拡大しており、月次の凸凹は経営の安全度を直接揺さぶります。受注が能力を上回る月は外注費と残業代が膨らみ、下回る月は固定費だけが残る。どちらに振れても、付加価値(売上−外部購入費)は目減りします。

需要が一定でも、能力側にも凸凹があります。設備の段取り時間、作業者のスキル差、図面遅延、材料入荷待ち、検査待ち。これらが重なると、ある工程に仕事が集中し、別の工程が手待ちになる。工場全体で見ると、付加価値を生めていない時間がじわじわと積み上がっていきます。

「忙しいのに儲からない」の構造

凸凹のままで生産すると、次のような悪循環が起こりがちです。

凸凹生産が利益を削る悪循環
受注に波がある
ピーク月に能力不足
残業・外注で対応
外部購入費と人件費が増える
暇な月は固定費だけ残る
付加価値が減り利益低下

ピーク月の残業や外注は、目に見えるコストだけでなく、不良発生率の上昇、納期遅延による信用低下、現場の疲弊と離職リスクといった見えにくいダメージも引き起こします。「全体最大」、つまり工場全体で最大の付加価値を生み出すという視点で見ると、凸凹を放置することそのものが大きな損失です。

個別受注で平準化はどこまでできるか

先に前提を確認しておきます。完全な一品物ばかりの工場では、平準化は限定的にしか成立しません。 案件ごとに仕様も工程も納期も違い、客先都合で納期が動くからです。ここを認めずに「平準化しなければ」と進めると、現場に無理を強いて終わります。

現実的なのは、全体を平らにすることではなく、谷を埋めることです。ピークを削るのは客先との交渉が要りますが、谷を埋めるのは自社の判断だけでできます。

仕事を2つに分けて考えてください。

平準化できる仕事は、内示がある品目、繰り返し受注のある準標準品、複数案件で共通に使う部品、社内で使う治具や設備の改造です。これらは着手時期を自社で決められます。

平準化できない仕事は、完全な一品物、客先都合で納期が動く案件、飛び込みの特急案件です。これらは来たときに流すしかありません。

谷の月に何を入れるかは、金額で判断できます。普段は外注に出している工程を、谷の月だけ内製に切り替える。 これが最も分かりやすい打ち手です。

月100万円を外注に出している工程があり、谷の月にその半分を内製で吸収できたとします。外注費は50万円減りますが、人件費は固定費なので増えません。 手待ちで遊んでいた時間を使うだけなので、増分費用は材料費と電気代程度です。差引で40万円以上が利益として残る計算になります。逆にピークの月は外注に出す。この振り分けが、平準化の実務的な中身です。

一倉定氏が説いたように、判断は常に会社全体で行うのが正しく、見るべきは「その工程を内製にすると会社全体の費用がいくら増減するか」です。工程単位の効率や外注比率そのものを目標にすると、この判断を誤ります。

治具製作、設備保全、多能工訓練も谷を埋める材料になります。いずれも普段は後回しにされ、忙しくなると永久に着手されない仕事です。谷の月にしかできない仕事として、あらかじめリスト化しておいてください。

山積み・山崩しによる負荷の可視化

山積み:工程ごとの負荷を積み上げる

山積みとは、受注済み案件と内示案件を工程・設備別に時間軸で積み上げ、各週・各日にどれだけの負荷がかかるかを見える化する作業です。エクセルで主要工程ごとに必要工数を集計するだけでも、ピークと谷が見えてきます。

山積み表のイメージ(主要工程・週次)
切削工程 必要工数 切削工程 能力 負荷率 状態
第1週 180h 200h 90% 余裕
第2週 260h 200h 130% 超過
第3週 240h 200h 120% 超過
第4週 120h 200h 60% 手待ち

この表を作るだけで、第2〜3週に切削工程がボトルネックになり、第4週は手待ちが発生することが一目でわかります。中小製造業の現場では、紙の受注台帳とホワイトボードでは把握しきれず、「忙しい」「暇」という感覚論で判断していることが多いものです。

山崩し:負荷を平らにならす

山崩しとは、山積みで見えた凸凹を、計画の組み替えで平らに近づける作業です。具体的には次のような手があります。

山崩しの主な手法
手法 内容 適用しやすい場面
前倒し生産 ピーク前の空き時間に製造を進める 材料・図面が確定している案件
後倒し 顧客と納期を調整し谷へ移す 納期に余裕のある内示案件
工程振替 別設備や多能工に振り替える 汎用工程・段取り変更が容易な工程
外注活用 ピーク分のみ外注する 標準化された加工
内製化 谷の時期に外注を内製へ戻す 社内に空き能力がある時期

山崩しで重要なのは、「外注=コスト悪」「内製=善」という単純化に陥らないことです。能力に余裕がある谷の時期は内製化で外部購入費を抑え、能力が足りないピーク時は外注を活用して機会損失を防ぐ。会社全体で増分の付加価値を最大化する視点で、ピークと谷の両方を見ながら判断します。

計画在庫を使った平準化生産

なぜ計画在庫が必要か

山崩しだけでは、すべての凸凹を吸収できません。多品種少量・個別受注の現場では、案件ごとに納期・仕様が異なるため、振替や前倒しに限界があります。そこで活躍するのが「計画在庫」、つまり繰り返し受注される標準品・準標準品を、需要の谷の時期にあらかじめ作っておく考え方です。

計画在庫なし 計画在庫あり
ピーク月は残業・外注で対応 谷の時期に在庫を積み増し
谷月は手待ちが発生 谷月も能力をフル活用
納期回答が後ろ倒しに 在庫品はすぐ出荷可能
外部購入費が膨らむ 外部購入費を抑制
品質トラブル増 標準条件で安定生産

計画在庫の対象は、全製品ではなく、繰り返し受注がある品目・需要予測しやすい品目に絞ります。完全な個別受注品でも、共通部品や半製品の段階で計画在庫を持つことで、リードタイム短縮と平準化を両立できる場合があります。

計画在庫の運用ステップ

計画在庫を組み込んだ平準化の進め方
過去実績から繰り返し品を抽出
発注点・適正在庫数を設定
山積み表で谷の時期を特定
谷の時期に計画在庫を生産
ピーク時は在庫から引当
実績を基に在庫水準を見直し

計画在庫は「在庫=悪」という固定観念から見ると敬遠されがちですが、能力を平準化して付加価値を最大化するための投資と考えるべきものです。ただし、需要予測を外して陳腐化させると損失になるため、対象品目の選定と在庫水準の継続的な見直しが必須です。在庫の引当・発注点管理が仕組みとして回っていることが前提になります。

営業部門との連携が成否を分ける

平準化は工場側だけでは完結しません。営業が「とにかく受注してくる」だけでは、工場の波は大きくなるばかりです。逆に、営業が工場の山積み状況を見ながら納期回答や受注順位を調整できれば、ピークの平準化は格段に進みます。

ベテランの工場長が成果を出している会社ほど、営業会議に工場長が参加し、内示情報と山積み表を共有しています。営業と工場が同じ画面で負荷状況を見られる仕組みを作ることが、平準化を組織として定着させる鍵になります。

平準化を継続するための実績データ活用

計画と実績の差を測り続ける

山積みは計画上の工数で組みますが、実際にかかった工数とズレることは珍しくありません。差異を放置すると、山積み精度がどんどん落ちていきます。

平準化を支える実績データの取得項目
データ項目 取得目的 活用先
案件別 実績工数 見積精度と山積み精度の検証 次回見積・計画在庫水準
工程別 稼働時間 ボトルネック特定 山崩し対象の選定
段取り時間 ロットサイズ最適化 計画在庫の発注ロット
不良・手直し時間 品質起因の能力ロス 工程改善
納期遵守率 平準化の効果測定 営業への能力情報提供

紙の日報やエクセル管理では、これらのデータを集計して山積み表に反映するまでに時間がかかり、月次でしか振り返れません。クラウド型の作業日報を利益データに変える仕組みを整えると、日次・週次で計画と実績の差を確認できるようになります。

ボトルネック工程を律速にする

工場全体の生産能力は、最も能力の低い工程(ボトルネック)で決まります。山積み表で繰り返し超過する工程があれば、そこがボトルネックです。平準化の優先順位は、まずボトルネック工程の負荷を平らにすること、次にその他の工程をボトルネックに合わせて律速することです。

工程進捗の見える化リードタイム短縮の取り組みを組み合わせると、平準化の効果はさらに大きくなります。

平準化をやりすぎると何が起きるか

平準化は良いことずくめではありません。やりすぎると別の損失が出ます。

谷を埋めるために計画在庫を作りすぎれば、現金が製品の形で寝ます。繰り返し受注があると思っていた品目の注文が来なければ、そのまま死蔵在庫です。平準化のつもりで在庫リスクを買っている状態になります。

もう1つが、リードタイムの長期化です。負荷を平らにするために着手を後ろ倒しにすると、その案件の納期は延びます。全体の凸凹は消えても、個々の案件は遅くなる。短納期を売りにしている会社では、平準化と競争力が正面から衝突します。

避け方は単純で、平準化の目的を先に決めておくことです。

  • 残業と外注費を減らしたいのか
  • 手待ちをなくして固定費の回収率を上げたいのか
  • 納期の安定性を上げたいのか

目的が「残業削減」なら、多少リードタイムが延びても構いません。目的が「短納期の維持」なら、ピークを削るのではなく能力側を増やす判断になります。目的を決めずに山積み表だけ作ると、何をもって成功とするかが決まりません。

計画在庫の量にも上限を決めてください。金額でいくらまで、あるいは何か月分までと決めておく。 決めていない現場では、谷が来るたびに在庫が積み上がります。

クラウド型生産管理で平準化を仕組みにする

紙とエクセルだけで平準化を回している現場でも、最初の数か月は何とか運用できます。しかし、案件数が増え、工程が複雑になるにつれて、山積み表の更新が追いつかなくなり、計画在庫の引当も曖昧になっていきます。結果として、せっかくの取り組みが形骸化し、もとの感覚論に戻ってしまうのが典型的なパターンです。

中小製造業向けクラウド型生産管理システム「Factory Advance」では、案件ごとの工程・必要工数・納期を登録するだけで、工程別の負荷状況が自動で集計されます。実績工数もスマホ・タブレットから登録でき、計画と実績の差を日次で確認できます。在庫の引当・発注点管理機能も備えており、計画在庫を含めた平準化生産の運用を支援します。

山積み・山崩しをガントチャート上で行う操作は工程管理機能のページにまとめています。

「見積試算 → 実績登録 → 差異分析 → 改善」というサイクルを回すことで、山積み精度が上がり、平準化の効果が利益に直結する仕組みになっていきます。詳しくはFactory Advance公式サイト、または製品紹介資料をご覧ください。

まとめ

製造業の平準化は、「山積みで負荷を見える化」「山崩しで凸凹を平らに」「計画在庫で吸収しきれない波を吸収」という3つの道具を組み合わせる活動です。個別の案件単位ではなく、会社全体で最大の付加価値を生む視点で判断することがポイントになります。

ピーク月の残業・外注、谷月の手待ち、その両方が利益を削っている実感があるなら、まずは主要工程の山積み表を1枚作るところから始めてみてください。負荷の見える化が、平準化と利益改善の入り口です。

参考文献

投稿者プロフィール

尾畠 悠樹
尾畠 悠樹
株式会社イーポート 代表取締役

■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
  デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者

兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。