Factory Advance

製造業の利益を蝕む「営業vs工場」の壁。データ連携で乗り越える全体最適経営とは

リード文

「営業はいつも無理な納期で、安い案件ばかり取ってくる…」
「工場はコスト意識が低く、なぜ納期が遅れるのか説明もない…」

中小製造業の経営者様や現場リーダーの方であれば、営業部門と工場(製造部門)の間に横たわる、この根深い対立に頭を悩ませた経験が一度はあるのではないでしょうか。この部門間の断絶は、対立が激化すればするほど、会社の利益を静かに、しかし確実に蝕んでいく経営上の深刻なボトルネックとなり得ます。

本記事では、この対立構造がなぜ生まれるのか、その根本原因を解き明かします。そして、データ連携による「全体最適」の視点で両者を結束させ、会社全体の収益を最大化するための具体的な方法論を専門的に解説します。

なぜ製造業で営業と工場の対立は起きるのか?

製造業の現場では、営業部門と工場部門の連携は不可欠です。しかし現実には、両者の間には見えない壁が存在し、日常的に対立が起こりがちです。その火種は、納期、コスト、品質、仕様変更など、業務のあらゆる側面に潜んでいます。

根本原因は「評価指標のズレ」と「情報の分断」

なぜ、これほどまでに対立が起きてしまうのでしょうか。その最大の原因は、各部門が異なる「評価指標」で動いていることにあります。

  • 営業部門:多くの場合、「売上高」や「受注件数」が主な評価指標です。そのため、多少無理な納期や価格でも、まずは受注を獲得することを優先しがちです。
  • 工場部門:一方、「製造コストの削減」や「生産効率の向上」が評価指標となることが多く、安定した生産計画を好み、急な仕様変更や短納期対応には抵抗を感じます。

このように、それぞれが自部門の目標達成(=部分最適)を追求した結果、会社全体としては大きな非効率や機会損失を生んでしまうのです。お互いの状況が見えない「情報の分断」が、この対立に拍車をかけます。

「部分最適」と「全体最適」の思考の違い
部分最適(各部門の視点) 全体最適(会社全体の視点)
営業は売上高・受注件数の達成を優先する 会社全体の利益(限界利益)で受注を判断する
工場は製造コスト削減・生産効率を優先する 部門を越えてデータを共有し連携する
自部門の目標達成が最優先になる 全社の収益最大化を共通の目標にする
情報が分断され部門間の対立が深まる 同じデータを見て対話し協働する

「部分最適」の罠がもたらす深刻な経営リスク

各部門がそれぞれの持ち場でベストを尽くしているように見えても、会社全体で見ると大きな損失に繋がっているケースは少なくありません。これは「サイロ化」とも呼ばれ、組織の成長を阻害する典型的なパターンです。

例えば、営業部門が売上目標達成のために、利益率の低い大規模案件を安価で受注したとします。営業部門は目標達成で評価されるかもしれませんが、工場はその対応に追われ、他の利益率の高い小口案件の生産が遅延。結果として、会社全体では利益が減少、あるいは赤字に陥るという事態を招きます。

逆に、工場がコスト削減のために特定部品の在庫しか持たないと決めれば、顧客の多様な要求に営業が応えられなくなり、大きな機会損失を生むかもしれません。こうした部分最適の積み重ねは、気づかぬうちに経営体力を著しく削いでいくのです。

全体最適への羅針盤:一倉定氏に学ぶ「増分計算」の視点

この根深い問題を解決する鍵は、「全体最適」への思考転換にあります。ここで指針となるのが、経営コンサルタントの一倉定氏が提唱した「会社全体で考える原則」「増分(ましぶん)計算」という考え方です。

これは、「その仕事を受けることで、会社全体の利益がいくら増えるのか?」という一点で判断する考え方です。たとえ個別に見れば赤字の案件であっても、それを受注することで得られる利益(限界利益)が、何もしない場合よりも会社にキャッシュを多く残すのであれば、受注すべきだという判断です。

例えば、閑散期で工場の設備や人員が遊んでいる状態であれば、固定費(労務費や減価償却費など)は仕事の有無にかかわらず発生します。このとき、材料費や外注費などの変動費を上回る価格で受注できれば、その差額分だけ固定費の回収が進み、会社全体の損失を圧縮できるのです。

「増分(ましぶん)計算」による受注判断の例
項目 A案件(単独黒字) B案件(単独赤字に見える) 会社全体(A+B受注時)
売上 100万円 50万円 150万円
変動費(材料費など) 40万円 30万円 70万円
限界利益(増分利益) 60万円 20万円 80万円
固定費(工場全体) -70万円 (考慮しない) -70万円
利益 -10万円 (判断不能) +10万円

対立を乗り越える「共通言語」としての個別原価管理

「増分計算」を実践し、営業と工場が同じ方向を向くためには、両者をつなぐ「共通言語」が必要です。それが、一案件ごとの正確な「個別原価」に他なりません。

多くの工場が陥りがちな「どんぶり勘定」では、どの製品が本当に儲かっていて、どの製品が利益を圧迫しているのかが見えません。これでは、営業も工場も感覚で議論するしかなく、対立は深まるばかりです。

まずは自社の原価構造を正しく分解し、定義することから始めましょう。

  • 変動費:材料費、外注加工費など、生産量に比例して増減する費用
  • 固定費:労務費、設備費(減価償却費)、間接製造経費、販管費など、生産量に関わらず発生する費用

この構造を全部門が共有し、一案件ごとの原価と利益を誰もが同じ基準で語れる状態を作ることが、連携の第一歩です。

営業と工場に一本の軸を通す「賃率」という武器

個別原価の中でも、特に算出が難しく、どんぶり勘定になりがちなのが「労務費」や「設備費」です。この問題を解決し、営業と工場に一本の判断軸を通す強力な武器が、一倉定氏の思想をベースにした「賃率(チャージレート)」という考え方です。

賃率とは、簡単に言えば「製造現場の1時間あたり、いくら稼げば会社に利益が残るのか」を示すレートです。これは決算書から科学的に算出できます。

必要賃率の計算例
項目 金額・時間 計算式
① 年間固定費合計 7,000万円 労務費、設備費、間接費、販管費など
② 年間目標利益 1,000万円 経営計画に基づく
③ 回収すべき総額 8,000万円 ① + ②
④ 年間総就業時間 15,000時間 直接工の総労働時間
⑤ 稼働率 80% 実作業時間 ÷ 総就業時間
⑥ 年間総稼働時間 12,000時間 ④ × ⑤
【必要賃率】 約6,667円/時間 ③ ÷ ⑥

この「必要賃率」を基準にすれば、営業は「加工に〇時間かかるから、最低でもこの価格で受注しないと会社全体の利益を損なう」という、根拠のある価格交渉が可能になります。一方、工場は「自分たちの作業時間がいかに会社のコストに直結しているか」を強く意識せざるを得なくなり、生産性向上へのインセンティブが働きます。賃率は、まさに営業と工場の双方にコスト意識と利益意識を植え付け、同じ目標に向かわせるための強力な共通言語となるのです。

データ連携が実現する「儲かる仕組み」の構築サイクル

賃率を算出し、個別原価を把握するだけでは片手落ちです。重要なのは、そのデータを活用して継続的に収益を改善していく「仕組み」を回すことです。

その中核となるのが、見積(予定)と実績の差異を分析する「予実管理」のサイクルです。なぜ見積よりも時間がかかったのか?それは営業の見積もりが甘かったのか、それとも工場の生産性に問題があったのか?この「なぜ」をデータに基づいて深掘りし、次のアクションに繋げることが、営業と工場の連携を本質的なものへと昇華させます。

営業と工場が連携する収益改善サイクル
見積(予定原価)の算出
受注・生産
実績登録(作業時間・材料費)
予実差異の分析(なぜズレたか)
改善アクションを次の見積・生産へ反映

このサイクルを回すことで、「営業のせいだ」「工場のせいだ」という責任のなすりつけ合いは終わり、両者が「どうすればもっと儲かるか」を共に考えるパートナーへと変わっていくのです。

営業と工場の連携をDXで加速する「Factory Advance」

これまで述べてきた「全体最適」の思想に基づく収益管理の仕組みは、中小製造業の利益構造を根本から変える力を持っています。しかし、この仕組みをExcelや手作業で構築・運用するには、膨大な手間と専門知識が必要であり、データの分断や属人化といった新たな問題を生みがちです。

「Factory Advance」は、まさにこの課題を解決するために生まれました。Factory Advanceは、個別受注生産を行う中小製造業に特化し、案件ごとの売上と原価(材料費、外注費、労務費、設備費)を正確に紐づけ、リアルタイムに収益を「見える化」します。

  • 営業部門は、外出先からでも正確な原価に基づいた見積作成や、担当案件のリアルタイムな進捗・収益状況を把握できます。
  • 工場部門は、スマートフォンのアプリなどから簡単な操作で作業実績を登録するだけで、手間なく正確な工数が集計され、見積との差異が自動で分析されます。

営業と工場が、いつでもどこでも同じデータを見て対話できる環境。それが、部門間の壁を壊し、真の連携を生み出すための最も確実な一歩です。Factory Advanceは、単なる業務効率化ツールではなく、会社全体の利益最大化を目指す「経営判断ツール」なのです。

まとめ

営業部門と工場部門の対立は、多くの製造業が抱える根深い問題ですが、決して解決不可能な課題ではありません。その根源にあるのは「評価指標のズレ」と「情報の分断」です。

この壁を乗り越えるには、

  1. 「部分最適」から「全体最適」へ思考を転換すること。
  2. 「個別原価」や「賃率」といったデータに基づく「共通言語」を持つこと。
  3. 「予実管理」のサイクルを回し、継続的に改善する「仕組み」を構築すること。

この3つが不可欠です。これらの実現は、会社の文化や体質を根本から変える挑戦であり、決して容易ではありません。しかし、その先には、部門間の対立を乗り越え、全社員が同じ目標に向かって邁進する、強く儲かる工場の姿があるはずです。

まずは、自社の収益構造を正しく把握し、「見える化」することから始めてみてはいかがでしょうか。その第一歩として、ぜひ下記の資料をご活用ください。

中小製造業向け収益管理実践ガイド

参考文献

  • 一倉定 (1981) 『増収増益戦略』 日本経営合理化協会.
  • 中小企業庁 (2024) 『中小企業・小規模事業者のための価格交渉ハンドブック』.
  • 株式会社イーポート (2023) 『利益を最大化する!中小製造業向け収益管理実践ガイド』.

投稿者プロフィール

尾畠 悠樹
尾畠 悠樹
株式会社イーポート 代表取締役

■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
  デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者

兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。