二重発注・過剰発注・発注漏れをなくす方法|製造業の発注管理の仕組み
同じ材料が2回届いた。使い切れない量を買っていた。必要なものを頼み忘れて生産が止まった。この3つはまとめて「発注ミス」と呼ばれますが、原因はまったく別です。 ひとつの対策で3つとも防げると考えると、どれも中途半端に終わります。さらに厄介なのは、二重発注と過剰発注の損失が損益計算書に現れないことです。買いすぎた分は在庫として資産に計上されるため、利益は減りません。減るのは現金だけで、経営者からは見えません。本記事では3つのミスを発生源ごとに分けて、それぞれの防ぎ方を整理します。
発注のミスは3種類あり、原因が別
まず分けます。原因が別なので、対策も別です。
3種類の発注ミスと発生源
| ミス | 何が起きたか | 原因の所在 | 対策の方向 |
|---|---|---|---|
| 二重発注 | 同じものを2回発注した | **情報共有**。発注済みが見えていない | 発注残を1か所で見える状態にする |
| 過剰発注 | 必要量より多く発注した | **発注単位と判断**。念のため多めに頼む | 所要量の根拠を持つ。発注単位を交渉する |
| 発注漏れ | 必要なものを発注しなかった | **記録**。口頭で頼まれて忘れた | 発注依頼を記録として残す導線を作る |
「発注管理をきちんとする」という対策では、この3つのどれも解決しません。 情報共有の問題、判断の問題、記録の問題は別々に手を打つ必要があります。
なお本記事は「決めた発注を正しく1回だけ実行する」話です。いくら・いつ発注するかを決める話は製造業の発注点管理の仕組みで扱っています。
二重発注はなぜ起きるか
原因はほぼ1つで、発注済みで未入荷のものが見えていないことです。
現場が「あの材料がない」と言い、担当者が発注する。ところが3日前に別の担当者がすでに発注していた。発注書の控えはファイルにあるが、それを見る習慣がない。在庫を見ても分かりません。発注済みのものはまだ入荷していないので、在庫はゼロのままです。
二重発注が起きやすいのは次の場面です。
- 発注担当が複数いる。 工場長も事務も現場リーダーも発注できる状態
- 急ぎの発注が電話で入る。 記録が後回しになり、その間に別の人が発注する
- 分割納入の途中。 1回目が入荷して、残りが未入荷であることが分からない
- 担当者が休んだ日。 代わりの人が状況を把握できないまま発注する
過剰発注はなぜ起きるか
原因は2つに分かれます。片方は仕組みで解け、もう片方は交渉が必要です。
「念のため多めに」という判断
欠品して生産が止まる怖さから、必要量より多く頼む判断です。これは担当者が悪いのではなく、所要量に確信が持てないから起きます。 図面から必要量を積む根拠がなく、経験で見積もっているなら、多めに頼むのが合理的な行動になります。
対策は安全在庫の設定です。「念のため」を個人の裁量から、計算されたバッファに置き換えます。 計算方法は製造業の安全在庫の計算方法にまとめています。
発注単位の切り上げ
必要量が3.2mでも、仕入先の最小発注単位が5mなら5m買うことになります。これは判断ミスではなく、取引条件による構造的な超過です。
こちらは仕組みでは解けません。 打ち手は3つで、仕入先と発注単位を交渉する、端材として次の案件で使う前提で管理する、同じ材料を使う案件をまとめて発注する、のいずれかです。端材が使われずに滞留しているなら、それは過剰発注が在庫として積み上がっている状態です。
発注漏れはなぜ起きるか
原因は記録です。口頭やチャットで依頼を受け、その場で発注できなかったものが落ちます。
現場から「明日までに〇〇を頼んでおいてください」と言われる。その瞬間は覚えているが、別の対応が入って忘れる。翌日、材料がないことに気づく。
発注漏れは「発注しようと思っていたもの」が可視化されていないことで起きます。 発注済みは記録に残っても、依頼を受けたが発注していないものは、どこにも記録がありません。
発注残という考え方
3つのミスのうち、二重発注と発注漏れは同じ1つの仕組みで大幅に減ります。 それが発注残の可視化です。
製造業の現場で押さえるべき数量は3種類あります。
押さえるべき3つの数量
| 数量 | 意味 | 見えていないと起きること |
|---|---|---|
| 在庫 | 今、社内にある量 | 欠品か過剰かが判断できない |
| **発注残** | 発注済みで未入荷の量 | **二重発注が起きる** |
| 受注残 | 受注済みで未出荷の量 | 必要量が分からない。請求漏れも起きる |
多くの中小製造業で見えているのは在庫だけです。 発注残と受注残は担当者の頭の中にあります。
この3つが並んで見える状態を作ると、「在庫は0だが発注残が10ある。だから追加発注は不要」という判断ができます。二重発注はこの一目で消えます。 また、発注依頼を受けた時点で「発注予定」として記録する導線があれば、発注漏れも同じ画面で拾えます。
受注残の管理は請求漏れの防止にも直結します。詳しくは締め請求とはで扱っています。
口頭・電話発注をやめられない現場の事情
「発注は必ずシステムに入力してから」というルールを作っても、守られないことが多いはずです。理由は明確で、急ぎの発注は電話が最速だからです。
仕入先に電話して「明日午前に〇〇を10本お願いします」と言えば30秒で終わります。システムに入力して発注書を発行して送るより速い。現場が電話を選ぶのは合理的です。
ここでルールを厳格にすると、電話で発注してシステムには入れない、という最悪の状態になります。発注は実行されたが記録がないので、二重発注も発注漏れも防げません。
折衷案:発注してから記録する順序を認める
現実的な運用は、電話発注を禁止せず、事後に記録することを必須にする形です。
- 電話で発注してよい。ただしその日のうちに発注残として記録する
- 記録は最小限でよい。何を、いくつ、どこに、いつまでに、の4項目
- 記録しないと入荷時に照合できないという理由を現場に説明する
「入力してから発注」ではなく「発注したら入力」に変えるだけで、記録率は大きく変わります。 順序を現場の動き方に合わせるのが、定着させる条件です。
発注ミスの損失は損益計算書に現れない
ここが本記事で最も重要な点です。数字で置きます。年間の材料費・外注加工費の発注額が8,000万円の工場を想定します。
発注ミスの年間損失と、どこに現れるか
| ミス | 前提 | 年間の金額 | 決算書のどこに出るか |
|---|---|---|---|
| 二重発注 | 年6件 × 平均12万円。半分は返品できず滞留 | **36万円**が在庫化 | **在庫(資産)。損失として出ない** |
| 過剰発注 | 発注単位の切り上げで発注額の5%が超過 | **400万円**が在庫増 | **在庫(資産)。損失として出ない** |
| 発注漏れ | 欠品で工程が1日停止 × 年8回 | **32万円**の機会損失 | どこにも出ない |
| 合計 | **現金が468万円分、在庫と機会損失に変わっている** |
二重発注と過剰発注は、利益を1円も減らしません。 買った材料は在庫として資産に計上されるため、損益計算書には現れないのです。減るのは現金だけです。
だから経営者からは見えません。 「黒字なのに資金が回らない」という状態の一因がここにあります。構造の全体像は製造業で黒字なのに資金繰りが悪い理由で扱っています。
判断は会社全体で見てください。発注担当者の作業精度の問題として扱うと、対策は「気をつける」に落ち着きます。増分で数えるべきは、現金が在庫に変わっている金額です。上の例では468万円で、これは月商1.5か月分を超える規模になり得ます。
3つのミスを防ぐ最小限の仕組み
すべてを一度に整える必要はありません。効果の順に3段階です。
- 発注残を1か所で見えるようにする。 二重発注が構造的に消えます。まずこれだけでよい
- 発注依頼を記録する導線を作る。 依頼を受けた時点で「発注予定」として残せば、発注漏れが拾えます。電話発注は禁止せず、事後入力を必須にします
- 所要量の根拠を持つ。 安全在庫を計算で置き、「念のため」を裁量から外します。発注単位の切り上げ分は、端材として次に使う前提で管理します
1番目だけで、3つのうち1つが構造的に消えます。 投資判断としては、ここから始めるのが最も確実です。
Factory Advance での発注管理
クラウド型の案件管理システム「Factory Advance」は、受注から発注、工程、実績、請求までを案件単位で管理します。発注管理の観点では次のように働きます。
- 案件(工番)に紐付けて発注できるため、何のための発注かが残る
- 発注済みで未入荷の発注残が一覧で見える。 二重発注の判断がその場でできる
- 入荷の記録と発注を突き合わせられるため、分割納入の残りが分かる
- 発注額が工番に集まるので、案件別の材料費と外注費がそのまま原価になる
受注と発注の管理機能は受発注管理機能のページにまとめています。発注量と発注タイミングの決め方は製造業の発注点管理の仕組み、受注の入り口の電子化は製造業の受注登録を自動化する方法もあわせてご覧ください。
発注のミスを仕組みで防ぎたい中小製造業の経営者・工場長は、Factory Advance 公式サイト、および製品紹介資料をご覧ください。
まとめ
3つの発注ミスは原因が別なので、対策も別です。要点を整理します。
- 二重発注は情報共有、過剰発注は発注単位と判断、発注漏れは記録の問題
- 二重発注の原因は発注残が見えていないこと。在庫を見ても分からない
- 過剰発注は「念のため」と「発注単位の切り上げ」に分かれる。前者は安全在庫の計算で、後者は交渉と端材管理で対処する
- 発注漏れは、依頼を受けたが発注していないものがどこにも記録されていないために起きる
- 押さえる数量は在庫・発注残・受注残の3つ。多くの工場で見えているのは在庫だけ
- 電話発注を禁止しない。「発注したら入力」に順序を変えるほうが記録率は上がる
- 二重発注と過剰発注は利益を減らさない。 在庫として資産に計上されるため損益計算書に出ず、減るのは現金だけ
- 最初にやるのは発注残の可視化。これだけで3つのうち1つが構造的に消える
まず直近3か月で、発注済みで未入荷のものがいくつあるかを数えてみてください。その数が担当者の頭の中にしかないなら、二重発注はいつでも起こり得ます。
参考文献
- 2025年版ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)
- 2024年版 中小企業白書(中小企業庁)
- 中小規模製造業者の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のためのガイド(IPA)
投稿者プロフィール

-
株式会社イーポート 代表取締役
■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者
兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。
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