製造業の80対20の法則|ABC分析で儲かる2割を見つける
「すべてのお客様は平等に大切だ」。多くの経営者がそう考え、営業担当は全顧客をまんべんなく訪問し、どんな小口の注文にも同じ手間をかけて対応しています。その姿勢は誠実で立派です。しかし、決算書を見て「これだけ働いているのに、なぜ利益が残らないのか」と首をかしげた経験はないでしょうか。原因のひとつは「努力の配分」にあるかもしれません。本記事では、80対20の法則を中小製造業の営業・顧客戦略にどう活かすか、そしてそれを実務に落とす「ABC分析」の使い方を整理します。
80対20の法則とは?成果は「少数」に偏っている
80対20の法則(パレートの法則)は、19世紀の経済学者ヴィルフレド・パレートが「富の大部分は少数の人に集中している」ことを発見したのが起源です。この「原因と結果のあいだにある偏り」は、ビジネスのあらゆる場面で観察されます。
80対20の法則が現れる典型的な場面
| 場面 | 少数の要因 | 生み出す成果 |
|---|---|---|
| 顧客 | 上位 約20%の顧客 | 売上の約80% |
| 製品 | 一部の製品 | 利益の約80% |
| 品質 | 約20%の原因 | クレームの約80% |
「80」と「20」はあくまで目安で、実際には75対25や90対10のこともあります。重要なのは数字そのものではなく、「投入した努力と得られる成果は比例しない」「成果は常に少数の要因に偏る」という構造を理解することです。ある営業担当が100社の取引先を持っていても、売上の8割はそのうち20社が生んでいる。そうした偏りは、担当者本人すら意識しないまま生じています。問うべきは「では、その担当者の時間はどう配分されていたか」です。多くの場合、時間は成果に比例せず、むしろ手のかかる小口顧客に取られているのが現実です。
80対20の法則を営業戦略に活かす4つの打ち手
この法則を中小製造業の営業に当てはめると、次の4つの打ち手になります。
第一に、上位2割の顧客に、時間の8割を使うことです。売上と利益で顧客をランク付けし、最良の上位2割に営業時間を集中させます。訪問頻度を増やし、要望を深く聞き、新製品の開発・提案まで踏み込む。「重要な顧客を深耕する」ことに意図的に時間を寄せます。
第二に、担当割りを「地域」ではなく「顧客の規模」で考えることです。大口顧客は納入先が各地に散らばっていても専任の担当者やチームが一元管理し、一貫した対応ができる体制をつくります。中小製造業でも「社長やベテランが最重要顧客を専任で持つ」といった形で応用できます。顧客ごとの関係性を深める考え方は、顧客管理CRMの見極め方とも共通します。
第三に、小口顧客は「低コストで回す」仕組みに切り替えることです。顧客を切り捨てるのは最終手段です。定型的なリピート注文はメール・FAX・EDIで受け、見積依頼はテンプレート化して即応する。訪問しなくても困らない体制が、大口顧客への集中を可能にします。
第四に、休眠顧客の「ドアをもう一度叩く」ことです。過去に大口取引があり、最近は注文が途絶えている顧客は、実は最も有望な見込み客です。以前の取引に満足した相手なら、再発注の可能性は新規顧客よりはるかに高い。取引データを振り返り、「1年前まで毎月注文があったのに止まっている顧客」を洗い出すだけで、有望な営業リストができあがります。
80対20を実務に落とし込む道具が「ABC分析」
次の壁は「では、うちの上位2割の顧客はどこか」という問いです。感覚で答えると、たいてい間違えます。「昔からの付き合いで存在感が大きい顧客」と「実際に利益を生んでいる顧客」は、往々にして一致しないからです。これにデータで答える定番の手法がABC分析です。
ABC分析の4ステップ
こうして並べると、多くの会社で「Aランクに入る顧客は全体の2〜3割しかいない」という80対20の構造が、自社の実データとして目の前に現れます。感覚ではなく数字で確認できるからこそ、打ち手に社内の納得感を持って踏み切れます。
累積構成比によるA/B/Cランクの分け方
| ランク | 累積構成比の目安 | 基本の対応方針 |
|---|---|---|
| Aランク | 〜約80% | 営業時間の8割を集中。訪問・提案を厚くする |
| Bランク | 約80〜95% | 現状を維持しつつ引き上げの余地を探る |
| Cランク | 残り(約95%〜) | 電話・メール中心の低コスト対応に切り替える |
重要なのは「売上」だけでなく「粗利」でも見ること
ひとつ注意したいのは、売上高だけで並べると判断を誤ることです。製造業では、売上は大きいが値引き要求が厳しく粗利が残らない顧客や、特急対応・仕様変更が多く手間ばかりかかる製品が必ず存在します。ランク付けの軸は、売上と粗利の両方であるべきです。売上軸と粗利軸の2回のABC分析を突き合わせるだけで、次のような戦略マップが描けます。
売上軸×粗利軸で見る顧客マトリクス
| 区分 | 見立て | 打ち手 |
|---|---|---|
| 売上A × 粗利A | 最重要顧客 | 営業時間の8割をここに集中する |
| 売上A × 粗利C | 要注意(薄利) | 価格・条件の見直し交渉、原価低減の対象にする |
| 売上C × 粗利A | 隠れた優良顧客 | 取引拡大の余地を積極的に探る |
この考え方は、製造業のABC分析で製品ポートフォリオを最適化する方法で扱う製品分析にもそのまま応用できます。
ABC分析でつまずく4つのポイント
手順そのものは単純ですが、実務では次の4点でつまずきます。
1つ目は、売上軸だけで1回やって終わることです。 売上ランクと粗利ランクは一致しません。売上だけでAランクを決めると、値引き要求の厳しい薄利の相手に営業時間の8割を注ぎ込むことになりかねません。
2つ目は、期間の取り方です。 直近1年で切ると、たまたま大型のスポット案件があった顧客が上位に来ます。その相手に営業を集中させても、翌年以降は同じ規模の注文が来ないかもしれません。3年分の推移を並べ、「毎年安定して上位にいる顧客」と「単発で上位に来た顧客」を分けると判断を誤りにくくなります。
3つ目は、粗利の計算方法です。 間接費を売上比率で一律に配賦した粗利で並べると、順位を作っているのが実際の利益ではなく配賦のルールになってしまいます。まずは売上から材料費と外注費だけを引いた限界利益で並べるのが確実です。人件費や工場の固定費は、受注を1件減らしてもすぐには減りません。ここを取り違えると、本当は固定費の回収に貢献している顧客を「赤字」と誤判定します。
4つ目は、一度やって終わりにすることです。 顧客のランクは動きます。四半期ごとに更新し、ランクが上下した顧客を確認する運用にして、はじめて分析が経営に効きます。
Cランク顧客を切ると、会社の利益はどうなるか
分析結果を見ると、Cランクの顧客を整理したくなります。手間の割に売上が小さいのだから、切れば利益が増えるはずだ。この直感は、多くの場合に間違いです。
年商3億円、経常利益900万円(利益率3%)の会社で考えます。Cランクにあたる30社の年間売上合計が3,000万円、そのうち材料費と外注費が1,800万円だとします。この30社との取引をやめると、何が起きるか。
Cランク30社との取引をやめた場合の損益
| 項目 | 現状 | 30社を切った場合 |
|---|---|---|
| 売上 | 3億円 | 2億7,000万円 |
| 材料費・外注費 | 1億8,000万円 | 1億6,200万円 |
| 限界利益 | 1億2,000万円 | 1億800万円 |
| 固定費(人件費・家賃・減価償却など) | 1億1,100万円 | 1億1,100万円(変わらない) |
| 経常利益 | 900万円 | ▲300万円 |
減るのは売上と、それに連動する材料費・外注費だけです。人件費も工場の家賃も機械の減価償却も、取引を1つやめたところで減りません。結果として、黒字だった会社が赤字に転落します。
ここで効くのが、一倉定氏が説いた増分(ましぶん)計算の考え方です。判断すべきは「その顧客の利益率が低いかどうか」ではなく、「その取引をやめたとき、会社全体の利益がいくら増減するか」です。会社の損益は常に会社全体で考えるのが正しく、顧客単位の有利不利だけで結論を出すと判断を誤ります。
ではCランク顧客をどう扱うか。答えは「切る」ではなく「かける手間を下げる」です。訪問をやめてメールと電話に切り替える、見積をテンプレート化する、小口注文の受付方法を定型化する。売上と限界利益は残したまま、投入する時間だけを削るのが正解です。
切る判断が正当化されるのは、浮いた時間で別の売上が確実に立つ見通しがある場合だけです。先の例で言えば、Cランクを切って浮いた営業時間でAランク顧客からの受注が3,000万円増え、その限界利益率が45%(1,350万円)であれば差し引き150万円のプラスになります。ただし増産に残業や追加外注が必要なら、その分も増分費用として差し引かなければなりません。
Factory AdvanceのABC分析機能で「上位2割」を数分で特定する
実際にABC分析をやろうとすると、販売管理システムから売上を吐き出し、Excelで顧客ごとに集計し、粗利のために原価データを突き合わせ……と、準備だけで一日仕事になりがちです。特に「粗利軸」の分析は、案件ごとの原価が把握できていないと計算のしようがありません。
中小製造業向け生産管理システム「Factory Advance」には、この作業を画面上で完結させるABC分析などの集計・分析機能が標準で備わっています。分析の軸は顧客別・製品別・製品種別から、対象は受注額・粗利額から選べ、条件を指定して検索するだけで、金額の大きい順に構成比・累積構成比つきの一覧が表示されます。累積構成比の列を上から眺めれば、「どこまでがAランクか」がひと目で分かります。スポットの大型案件があった相手を集計から除外して再計算する、といった実務的な使い方にも対応します。
ここで見つけた上位2割を毎月の計画と実績に組み込む型は製造業の予実管理の仕組み作り、逆に利益を削っている顧客の見分け方は製造業の120対20の法則で扱っています。
粗利軸で分析できるのは、Factory Advanceが受注から発注・製造・納品・請求までを一元管理し、案件ごと・製品ごとの原価と粗利を日々蓄積しているからです。分析のためにデータを別途用意する必要はありません。深掘りしたい顧客・製品が見つかれば、収益性分析レポートで内訳を確認し、受注推移で月別動向を追う、という流れで分析を深められます。こうした収益構造の見える化の土台があってこそ、ABC分析は実務で機能します。
明日から始める80対20実践ステップ
本記事の内容を実務に移すには、まず直近1年の顧客別ABC分析を売上軸で行い、上位2割が売上の何%を占めるか、自社の「偏り」を知ることから始めます。次に同じ分析を粗利軸で行い、売上ランクと粗利ランクがズレている顧客を特定します。そのうえで営業時間の配分を見直し、Aランク顧客への提案を厚く、Cランク顧客の受注は低コストな方法へ切り替える。さらに製品別のABC分析で「儲かる製品」を特定し、休眠顧客リストをつくって再アプローチする。そして四半期ごとに分析を繰り返します。ランクは固定ではありません。大切なのは、一度きりで終わらせず、データを見て→打ち手を変えて→また数字で確かめる、というサイクルを回し続けることです。
まとめ
80対20の法則が教えてくれるのは、「もっと頑張る」のではなく「頑張る場所を変える」ことで業績は大きく変わる、ということです。売上・利益の大部分は少数の顧客・製品から生まれています。顧客を売上と粗利でランク付けし、上位2割に時間の8割を集中させる。小口顧客は切り捨てず低コストな対応に切り替え、休眠顧客には再アプローチする。この戦略を実データに落とし込む定番手法がABC分析です。そして頑張る場所を正しく選ぶには、顧客別・製品別の売上と粗利がいつでも見られる状態になっていることが欠かせません。Factory Advanceは、その「儲かる2割を見つける道具」を、専任のIT担当者がいない会社でも使える形で提供します。顧客別・製品別の収益をどう見える化するかは、無料の収益管理実践ガイドにまとめています。ぜひお気軽にお問い合わせください。
参考文献
- リチャード・コッチ 著『増補リニューアル版 人生を変える80対20の法則』CCCメディアハウス、2018年
- 一倉定『一倉定の社長学シリーズ⑤ 増収増益戦略』日本経営合理化協会出版局
- 中小企業庁「2024年版中小企業白書」
投稿者プロフィール

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株式会社イーポート 代表取締役
■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者
兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。
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