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個別原価計算とは?総合原価計算との違いと個別受注製造業での進め方

「この案件、儲かったのか」と聞かれて即答できない。個別受注の中小製造業でよく起きる状況です。決算書には製造原価総額が並んでいても、案件ごとの原価が分かれていなければ、どの仕事で利益が出てどの仕事で失ったのかは分かりません。それを解決する会計の土台が個別原価計算です。本記事では、個別原価計算とは何か、総合原価計算との違い、工番との対応関係、5費目の集計方法と1案件の積み上げ計算例、そして運用を続けるための条件までを整理します。

個別原価計算とは?

個別原価計算とは、製造指図書(工番)ごとに原価を集計する原価計算の方法です。1つの案件を1つの原価計算単位として扱い、その案件に投入した材料費・外注加工費・労務費・設備費・間接製造経費を、すべて同じ番号のもとに積み上げます。

対象になるのは、顧客ごとに仕様が異なり、同じものが二度と流れてこない生産形態です。専用機械の製作、治具や金型の製作、装置の据付工事、1品物の精密加工などが典型で、日本の中小製造業の多くがここに含まれます。原価計算の教科書では「受注生産に適用する方法」と説明されますが、実務での意味はもっと単純で、利益が出た仕事と出なかった仕事を分けて見えるようにするための仕組みです。

総合原価計算との違い

もう一方の柱が総合原価計算です。こちらは一定期間に発生した製造原価の合計を、その期間の生産数量で割って製品1個あたりの原価を出します。同じ製品を繰り返し大量に作る生産形態に向いた方法です。

個別原価計算と総合原価計算の違い
個別原価計算 総合原価計算
集計単位は製造指図書(工番)ごと 集計単位は一定期間の生産数量全体
案件ごとに原価が確定する 期間の総原価 ÷ 生産量で平均原価を出す
個別受注・多品種少量・1品物向け 同一製品の繰り返し大量生産向け
案件別の利益が分かる 製品1個あたりの平均原価が分かる
仕掛中の案件も工番単位で残高が追える 仕掛品は完成品換算量で評価する

違いは計算方法の好みではなく、事業の形に規定されます。仕様が案件ごとに違うのに平均原価で管理すると、手のかかった案件の赤字が、順調だった案件の黒字に埋もれて見えなくなります。逆に、同一品を毎日大量に流している工程で工番を切っても、事務作業が増えるだけです。自社がどちらに属するかは、「同じ図面が来月も流れるか」を問えば判別できます。

個別受注の製造業で個別原価計算が必須になる理由

個別受注では、見積の段階で価格が確定し、原価は後から実績として積み上がります。この時間差があるため、案件が終わるまで実際の利益は分かりません。平均原価で管理していると、次の3つが起こります。

第一に、赤字案件が発見されません。全社の粗利率が例年並みなら、その裏で2割の案件が赤字でも気づけません。第二に、見積の根拠が更新されません。実績原価が案件に紐付いていないため、次回の見積は前回の見積を写すことになり、誤差がそのまま引き継がれます。第三に、値上げ交渉の材料がありません。「この仕様は工数がこれだけかかっている」という数字が手元になければ、価格転嫁の話は感覚論になります。

案件別の原価が見えている状態は、採算管理とはで扱った採算の見方を実務で成立させる前提条件でもあります。

個別原価計算と工番の対応関係

個別原価計算の集計単位である製造指図書は、中小製造業の現場では工番(製番・作番)と呼ばれます。個別原価計算を成立させるには、発生したコストが必ずどれかの工番に紐付く状態を作る必要があります。

工番を軸にした個別原価計算の流れ
受注時に工番を発行し、見積原価の内訳を工番に登録する
材料の出庫伝票・外注発注書に工番を記載する
作業日報・実績入力で作業時間を工番ごとに記録する
間接製造経費を自社の基準で工番に配賦する
工番別の実績原価を集計し、見積原価と突き合わせる

つまずくのは決まって2番目と3番目です。材料をまとめ買いして工番を付けずに出庫している、日報に「加工 8時間」としか書かれておらずどの案件の作業か分からない、という状態では、どれだけ優れた計算ロジックがあっても原価は工番に集まりません。工番の設計そのものは工番とはで、案件別の見える化の仕組みは工番管理システムとはで整理しています。

工番に集める5つの費目

工番に集める原価は、次の5費目に分けて扱うと実務が回ります。

工番に集める5費目と集計方法
費目 内容 工番への集め方 つまずきやすい点
材料費 その案件に使った素材・購入部品 出庫伝票・購入伝票に工番を記載 共通在庫からの払い出しが工番不明になる
外注加工費 メッキ・熱処理・機械加工などの外注 発注書と請求書を工番に紐付ける 月末一括請求で案件への割り振りが崩れる
労務費 直接工の作業時間 × アワーレート 日報・実績入力で工番別に時間を記録 段取り時間・手直し時間が計上漏れになる
設備費 機械の稼働時間 × 設備チャージレート 工程実績の機械稼働時間から算出 レートが未設定で労務費に埋もれている
間接製造経費 工場消耗品・光熱費・間接部門人件費など 自社基準で配賦する 配賦基準を細かくしすぎて保守が破綻する

労務費と設備費は、時間にレートを掛けて算出します。アワーレート(人)は直接工の年間総支給額を年間就業時間と稼働率で割って求め、たとえば年間総支給額3,000万円、年間就業時間15,000時間、稼働率80%なら 30,000,000 ÷ (15,000 × 0.8) = 2,500円/時間 となります。設備費も同じ考え方で、機械の年間費用を年間操業時間と稼働率で割ります。算出手順は設備費チャージレートの計算方法で詳しく扱っています。

1案件の個別原価を積み上げる計算例

工番 K-2601 の専用治具製作案件を例に、5費目を積み上げます。間接製造経費のレートは(労務費+設備費)の12.5%、販管費レートは製造原価の20%、目標営業利益率は11%とします。

工番K-2601の個別原価積み上げ例
区分 内訳 金額
材料費 鋼材・購入部品 380,000円
外注加工費 熱処理・表面処理 150,000円
労務費 62時間 × 2,500円/時 155,000円
設備費 40時間 × 1,500円/時 60,000円
間接製造経費 (155,000+60,000) × 12.5% 26,875円
製造原価 計 上記5費目の合計 771,875円
販管費 771,875円 × 20% 154,375円
総原価 製造原価+販管費 926,250円
見積価格 総原価 × 1.11(営業利益率11%) 約1,028,000円

この案件が実績62時間ではなく78時間かかっていたなら、労務費だけで 16時間 × 2,500円 = 40,000円 の超過です。個別原価計算が入っていれば、この40,000円がどの工程で発生したかまで分解でき、次回の同種案件の見積工数を修正できます。見積と実績を突き合わせる運用は製造業の特注品 見積精度の上げ方で具体的に扱っています。

間接費の配賦は「粗く始めて、必要なら細かくする」

個別原価計算でつまずきが集中するのが間接製造経費の配賦です。工場の光熱費や間接部門の人件費は、どの案件のものか一意に決まりません。ここで「正確さ」を追い求めると、配賦基準のマスタが増え続け、更新が止まり、結局は誰も信用しない数字になります。

実務では、まず「労務費+設備費に対する一定率」あるいは「直接作業時間あたりの一定額」という粗い基準で始めるのが現実的です。案件間の比較ができれば、配賦の精度が多少荒くても意思決定には十分使えます。細かくするのは、粗い基準で明らかに実態と合わない工程が見つかったときで構いません。

配賦を粗くすることのもう一つの利点は、判断を案件単位に閉じ込めずに済むことです。配賦後の案件利益がわずかに赤字だからといって断るべきとは限りません。その案件を受けたことで会社全体の売上・費用・利益がどれだけ増えるか、つまり増分で見ると、固定費の回収に貢献していて受注したほうが有利な場合があります。逆に、案件単体では黒字でも、残業と外注追加で全社の費用を押し上げていれば見かけの黒字です。案件別の数字は会社全体の損益とセットで読むというのが、個別原価計算を経営に効かせる条件になります。全社の収益構造の見方は中小製造業の収益構造を見える化で整理しています。

個別原価計算を続けるための3つの条件

導入より難しいのが継続です。定着している会社には共通して次の3つが揃っています。

第一に、現場が実績を入力できる負荷になっていること。日報を紙で書いて事務が転記する運用は、案件が増えると必ず滞ります。第二に、レートを年1回は更新していること。賃上げや設備更新があってもレートが数年前のままなら、積み上げた原価は実態から外れます。第三に、差異が次の見積に返る手順が決まっていること。集計して終わりでは、原価は記録にしかなりません。

この3条件を人の努力ではなく仕組みで満たそうとすると、案件単位でデータが繋がるシステムが必要になります。選定の考え方は原価管理システムとはにまとめています。

Factory Advance での個別原価計算

Factory Advance は、個別受注・多品種少量生産の中小製造業に特化したクラウド型生産管理システムで、個別原価計算を業務フローの中に組み込む設計になっています。

  • 受注時に発行した工番に、見積原価の内訳・材料出庫・外注発注・工程実績・請求までが自動で紐付く
  • タブレットやスマートフォンからの実績入力で、作業時間が工番別・工程別に日々蓄積される
  • アワーレートと設備チャージレートをマスタで管理し、レート更新が過去案件の分析にも反映される
  • 仕掛中の案件でも投入済み原価が確認でき、見積超過の兆候を完成前に把握できる
  • 環境構築20万円+月額3万円(スモールプラン)から始められ、専任のIT担当者がいなくても運用できる

積み上げた原価を見積へ戻す流れは見積機能のページにまとめています。 原価から見積へつなげる全体像は中小製造業のための製造原価計算方法で整理しています。

見積試算、実績登録、差異分析、改善という収益向上サイクルを回す土台として使えます。機能や画面の詳細はシステム紹介ページでご確認ください。

まとめ

個別原価計算とは、製造指図書(工番)ごとに原価を集計する方法であり、案件ごとに仕様が変わる個別受注の製造業では、利益の所在を知るための必須の土台です。総合原価計算との違いは集計単位にあり、平均原価で管理する限り赤字案件は黒字案件に埋もれます。実務の要は、材料費・外注加工費・労務費・設備費・間接製造経費の5費目を確実に工番へ紐付けること、間接費の配賦は粗く始めること、そして案件別の数字を会社全体の損益とセットで読むことです。まずは直近に完了した案件を3件選び、5費目を工番単位で積み上げて見積と突き合わせてみてください。自社の原価がどこで見えなくなっているかが、その3件で分かります。ご相談やシステムに関するご質問は、お気軽にお問い合わせください。

参考文献

投稿者プロフィール

尾畠 悠樹
尾畠 悠樹
株式会社イーポート 代表取締役

■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
  デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者

兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。