Factory Advance

作業日報の工数を原価に載せる方法|賃率の掛け方と実績原価の出し方

工数を集め始めた工場が次にぶつかるのが、「この時間を、いくらとして原価に載せればいいのか」という問題です。時間は集まっているのに金額に変換できず、結局は決算まで案件の損益が分からない。変換に必要なのは賃率という1つの数字ですが、これを人件費だけで作るか設備費まで含めるかで、同じ案件の原価が2倍近く違ってきます。本記事では、日報で集めた工数を実績原価に変えるまでの計算手順と、賃率の作り方、そして工数のわずかなズレが粗利をどれだけ誤らせるかを、数字で整理します。

原価計算のなかで工数が担っている役割

製造原価は、材料費・労務費・製造経費の3つで構成されます。このうち材料費は購入伝票から、外注加工費は請求書から、金額のまま拾えます。金額として存在せず、時間からしか作れないのが労務費と設備費です。

つまり工数は、原価計算のなかで唯一「時間を金額に翻訳する」役割を担っています。ここが空白のままだと、原価は材料費と外注費しか積めません。多くの工場が「材料は分かるが、うちの手間がいくらか分からない」と言うのは、この構造によるものです。

翻訳の式そのものは単純です。

労務費 = 実績工数 × 賃率

問題は右辺の2つがどちらも作りにくいことです。工数は日報の設計で決まり、賃率は自社の決算書から作ります。

工数に何を掛けると原価になるのか

賃率(チャージレート)は、1時間あたりいくらのコストがかかっているかを表す数字です。作り方は次のとおりです。

賃率の作り方と計算例
種類 計算式 計算例 出てくる値
労務費チャージレート 年間総支給額(社会保険料込) ÷ (年間総労働時間 × 稼働率) 3,000万円 ÷ (15,000時間 × 0.8) 2,500円/時間
設備費チャージレート 年間費用(減価償却+ランニング) ÷ (年間操業可能時間 × 稼働率) 1,000万円 ÷ (10,000時間 × 0.66) 1,500円/時間
間接費レート 間接製造費用 ÷ 直接製造費用 × 100 自社の決算書から算出 12.5%
販管費レート 販管費 ÷ 製造原価 × 100 自社の決算書から算出 20.0%

分母に稼働率が入っている点を落とさないでください。 年間総労働時間をそのまま分母に置くと、実際には手待ちや会議で作業に使えていない時間まで「原価を回収できる時間」として数えることになり、賃率が低く出ます。低い賃率で見積を作れば、固定費が回収できません。

稼働率は測っていなければ0.8前後から始めて構いませんが、日報で実働工数を集め始めたら、実測値に置き換えてください。 ここが賃率の精度を決めます。

賃率は人だけで作るか、設備を含めるか

同じ工数でも、掛ける賃率で原価が変わります。この判断が中小製造業でよく間違われます。

原則は工程の性質で分けることです。

  • 人が主体の工程(組立、仕上げ、検査、梱包)は、労務費チャージレートだけで積みます
  • 機械が主体の工程(NC加工、レーザー、プレス、熱処理)は、労務費に設備費チャージレートを足します
  • 1人が複数台を同時に見ている工程は、設備側の時間で積み、人件費は台数で割って配分します

3つ目が特に重要です。1人で3台を回している工程に対して、人の賃率を3台分そのまま掛けると、原価が3倍に膨らみます。逆に設備費を無視すると、機械が主体の工程の原価が大幅に安く出て、その工程の仕事ばかり安値で受注してしまいます。設備側の計算方法は設備費チャージレートの計算方法で詳しく扱っています。

損益分岐賃率と必要賃率を分けて持つ

賃率にはもう1つの作り方があります。決算書の固定費から逆算する方法で、規模の小さい工場ほど扱いやすい考え方です。

  • 損益分岐賃率 = 単位期間の固定費 ÷ (直接工総工数 × 出勤率 × 操業度)
  • 必要賃率 = (固定費 + 必要利益) ÷ (直接工総工数 × 出勤率 × 操業度)

固定費6,000万円・必要利益1,000万円・直接工総工数15,000時間・出勤率と操業度を合わせて0.8とすると、必要賃率は次のようになります。

(6,000万円 + 1,000万円) ÷ (15,000 × 0.8) ≒ 5,833円/時間

3つの賃率の使い分け
賃率 意味 使う場面
実際賃率 特定期間の付加価値実績 ÷ 投入した直接工総工数 自社の実力値の確認。時系列で追う
損益分岐賃率 この単価を割ると赤字になる境界 受注可否の最終ライン。値下げ交渉の下限
必要賃率 目標利益を確保するために必要な単価 見積の標準レート。通常はこれを使う

見積には必要賃率を、受注可否の判断には損益分岐賃率を使います。 この2つを1つの数字で兼ねようとすると、「この案件は安いが受けるべきか」という場面で判断の根拠がなくなります。

日報の工数が実態からずれる4つのパターン

賃率が正しくても、掛ける工数が実態と違えば原価は狂います。日報の工数がずれる原因はほぼ次の4つです。

日報の工数がずれる4つのパターン
パターン 起きていること 原価への影響 対策
まとめ書き 週末に1週間分を思い出して書く 記憶に頼るため、工番配分が実態と乖離する その場で打刻する導線にする
8時間に丸める 実働7時間でも定時分を記入する 全案件に薄く水増しされ、差異が見えなくなる 開始と終了の打刻に変える
手待ちを作業に付ける 材料待ちの時間を直前の工番に付ける 特定案件だけ原価が膨らみ、原因が分からない 中断理由を選択式で持たせる
応援作業が抜ける 他工程を手伝った時間が自分の工番に残る 応援を受けた案件の原価が過少になる 工番を都度選ばせる

2つ目の「8時間に丸める」が最もたちが悪いです。合計は正しいので集計しても異常に見えず、しかしすべての案件に薄く誤差が広がるため、どの案件が本当に赤字なのかが永久に分かりません。工数の内訳を分けて測る考え方は正味工数とは何かを整理した記事にまとめています。

工数のズレは粗利を何倍に増幅するか

工数の誤差がどれだけ効くかを数字で置きます。受注額100万円の案件を想定します。

  • 受注額: 100万円
  • 材料費 + 外注加工費: 40万円
  • 見積工数: 100時間 / 賃率: 4,000円(労務2,500円 + 設備1,500円)
  • 見積上の労務費と設備費: 40万円
  • 見積粗利: 100 − 40 − 40 = 20万円(粗利率20%)

ここで実績工数が 112時間、つまり見積より12%多くかかったとします。

  • 実績の労務費と設備費: 112時間 × 4,000円 = 44.8万円
  • 実績粗利: 100 − 40 − 44.8 = 15.2万円(粗利率15.2%)
工数12%の超過が粗利に与える影響
見積(100時間) 実績(112時間)
受注額 100万円 受注額 100万円
材料費・外注費 40万円 材料費・外注費 40万円
労務費・設備費 40万円 労務費・設備費 44.8万円
粗利 20万円(20.0%) 粗利 15.2万円(15.2%)
粗利額は24%減少

工数の12%のズレが、粗利額を24%減らしています。 原価の一部にしか工数が効いていないため、率としては小さく見えますが、利益は残りの部分なので変動が増幅されます。工数管理が利益に直結すると言われるのは、この構造によるものです。

粗利率が薄い案件ほど増幅率は大きくなります。粗利率10%の案件では、同じ12%の工数超過で粗利がほぼ半分になります。

実績原価を次の見積に返すところまでやる

実績原価を出しただけでは、過去の答え合わせで終わります。利益が変わるのは、出した数字を次の見積に反映したときです。順序は次のとおりです。

  1. 案件終了時に、見積工数と実績工数の差を工程別に出す
  2. 差の理由を分ける。仕様変更・手直し・見積の読み違いのどれか
  3. 見積の読み違いだったものだけ、標準工数を実績の中央値で更新する
  4. 更新した標準工数で、次の類似案件を積む

3番目で理由を選別することが肝です。仕様変更で増えた工数まで標準に取り込むと、標準工数が際限なく膨らみ、見積が高くなって失注します。逆に手直しの時間を標準に含めると、不良のコストを客先に転嫁し続けることになります。

この循環の作り方は予実管理の仕組み作り、案件単位で原価を積む手順は個別原価計算の進め方、原価計算全体の流れは中小製造業のための製造原価計算方法で扱っています。

案件単位の損得だけで受注を決めない

工数に賃率を掛けて出た原価は、労務費を変動費のように扱った数字です。しかし現実には、人件費は短期では受注量に応じて減りません。手が空いている工程で受ける仕事を「賃率を割るから断る」と判断すると、固定費の回収機会を自ら手放すことになります。

判断は工場全体で行ってください。その仕事を受けることで会社全体の費用がいくら増え、入金がいくら増えるかという増分で見ます。材料費と外注費しか増えないのであれば、賃率を下回っていても受けたほうが会社の利益は増えます。

ただし、これを常態化させてはいけません。空き工程を埋めるための例外的な判断であり、この価格が客先の基準価格になった時点で固定費が回収できなくなります。例外として扱う、記録に残す、繰り返さないの3点を運用ルールにしてください。

Factory Advance での工数から原価への流れ

クラウド型の案件管理システム「Factory Advance」は、売上側のデータと原価側のデータが分断されていることを、案件別の利益が見えない根本原因として設計されています。工数から原価への変換については次のように動きます。

  • 日報とQRコード打刻の実績工数が、工番に紐付いた状態で蓄積される
  • 工程ごとに設定した賃率が自動で掛かり、労務費と設備費が案件別に積み上がる
  • 材料費と外注加工費が同じ工番に集まり、案件別の粗利が決算を待たずに出る
  • 見積工数と実績工数が並ぶので、標準工数の更新根拠がそのまま得られる

工数の集め方と、その実績が原価につながる流れは作業日報機能のページにまとめています。実績工数を見積に返す具体的な進め方は特注品の見積精度の上げ方もあわせてご覧ください。

工数を金額に変えて案件別の利益を掴みたい中小製造業の経営者・工場長は、Factory Advance 公式サイト、および収益管理の進め方をまとめた資料をご覧ください。

まとめ

工数は、原価計算のなかで時間を金額に翻訳する唯一の材料です。要点を整理します。

  • 労務費 = 実績工数 × 賃率。賃率の分母には必ず稼働率を入れる
  • 人が主体の工程は労務費レートだけ、機械が主体の工程は設備費レートを足す。1人で複数台なら台数で配分する
  • 見積には必要賃率、受注可否の判断には損益分岐賃率を使う。1つの数字で兼ねない
  • 日報のズレは4パターン。8時間に丸める運用が最も見つけにくく、最も害が大きい
  • 工数12%のズレは粗利額を24%減らす。 粗利率が薄い案件ほど増幅する
  • 実績を標準工数に返すときは、仕様変更と手直しの分を混ぜない
  • 空き工程を埋める受注は増分で判断する。ただし例外として記録し、常態化させない

最初の一歩は、自社の賃率を1つ作ることです。決算書と年間総労働時間があれば、30分で出せます。

参考文献

投稿者プロフィール

尾畠 悠樹
尾畠 悠樹
株式会社イーポート 代表取締役

■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
  デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者

兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。