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原価差異分析のやり方|見積と実績の差を4つに分解して原因を特定する手順

案件が終わって集計してみたら、見積より原価が15%多くかかっていた。ここで多くの工場が「工数が超過した」と結論し、現場に改善を求めます。ところが内訳を開くと、超過分の半分以上は材料の値上がりと客先都合の仕様変更だった、ということが珍しくありません。差異を分解しないまま対策を打つと、取り戻せる先を間違えます。 現場が努力しても減らない部分に力を入れ、価格転嫁と追加請求で回収できる部分を放置することになるからです。本記事では、見積原価と実際原価の差を4つに分解して原因を特定する手順と、分解した結果をどう扱うかを整理します。

原価差異分析とは何か

原価差異分析とは、見積時に想定した原価と、実際にかかった原価の差を、発生源ごとに分けて原因を特定する作業です。差の合計額を出すだけでは分析になりません。分けるところまでやって初めて、次の行動が決まります。

この記事が扱うのは終わった案件の事後分析です。これから出す見積のブレを小さくする話は製造業の特注品 見積精度の上げ方、差異分析を毎月の経営サイクルに組み込む話は製造業の予実管理の仕組み作りで扱っています。本記事は分解そのものの手順に絞ります。

前提として、分解には見積側の内訳が必要です。見積書に総額しか残っていない案件は、どうやっても分解できません。差異分析を始めるとは、見積の内訳を残し始めることと同じです。

見積原価と実際原価がずれる4つの発生源

中小製造業の個別受注案件で発生する差異は、実務上この4つに収まります。

原価差異の4つの発生源
差異 発生源 誰が動かせるか 回収の方向
材料単価差異 仕入単価が見積時点より上がった 購買・経営 価格転嫁で客先へ
材料数量差異 歩留まりが悪く、見積より多く使った 現場・設計 工程改善で自社が吸収
工数差異 実績工数が見積工数を超えた 現場・見積担当 工程改善か、見積の是正
仕様変更差異 客先都合で前提が変わった 営業 追加請求で客先へ

回収の方向が4つで異なる点が最重要です。 材料単価差異と仕様変更差異は客先に請求できる可能性があるもので、材料数量差異は自社で吸収するもの、工数差異は原因次第でどちらにもなります。

なお賃率そのもののずれ(賃率差異)は、案件別の差異としては扱いません。賃率は決算を元に年1回見直す数字なので、案件ごとに動かすと分析が濁ります。賃率の作り方は作業日報の工数を原価に載せる方法にまとめています。

差異を4つに分解する手順

分解は、見積と実績の数字を突き合わせて機械的に計算できます。

差異の計算式と計算例
差異 計算式 計算例 金額
材料単価差異 (実際単価 − 見積単価)× 実際数量 (1,150円 − 1,000円)× 52kg +7,800円
材料数量差異 (実際数量 − 見積数量)× 見積単価 (52kg − 50kg)× 1,000円 +2,000円
工数差異 (実績工数 − 見積工数)× 賃率 (112時間 − 100時間)× 4,000円 +48,000円
仕様変更差異 変更後の見積原価 − 当初の見積原価 追加加工2工程分 +32,000円
合計 **+89,800円**

順序に注意してください。 材料単価差異を「実際数量」で、材料数量差異を「見積単価」で計算します。逆にすると差異が二重に計上され、合計が実際の差と合わなくなります。

仕様変更差異は、変更を受けた時点で見積を作り直して記録しておくのが前提です。これを残していないと、仕様変更による増加分が工数差異に混ざり、現場の責任として扱われてしまいます。差異分析で最も頻繁に起きる誤りがこれです。

分解しないと、取り戻せる先を間違える

分解の価値を数字で示します。年商2.4億円・年間600件を受注する工場を想定します。

  • 平均受注額: 40万円
  • 売上に対する労務費と材料費の割合から、1件あたりの原価差異が平均1万円発生している
  • 年間の差異総額: 600件 × 1万円 = 年600万円

この600万円を「工数が超過している」と一括で捉え、現場改善だけで対応しようとした場合と、分解した場合を比べます。

差異600万円を分解した場合と、しなかった場合
差異の内訳 金額 分解しない場合の扱い 分解した場合の打ち手
工数差異 240万円 現場改善 現場改善+見積工数の是正
材料単価差異 180万円 現場改善(効果なし) 価格転嫁の交渉材料にする
仕様変更差異 120万円 現場改善(効果なし) 追加請求として客先に請求する
材料数量差異 60万円 現場改善 歩留まり改善で自社吸収
現場の努力で減る分 **240万円**
客先へ回収できる分 **300万円** **取り逃す** **交渉と請求で回収を狙える**

分解しないと、300万円分の回収機会を最初から失っています。 しかもこの300万円は現場がどれだけ努力しても減りません。材料の仕入単価は現場では動かせず、客先都合の仕様変更も現場の責任ではないためです。

判断は工場全体で行ってください。 差異の総額だけを見て「原価が悪化した」と評価すると、対策は必ず社内に向かいます。増分で見れば、この案件を受けたことで会社の費用がいくら増え、そのうち社外に請求できるのはどこまでかという問いになり、答えが変わります。

価格転嫁の交渉材料としてどう使うかは、コスト費目別の根拠を示す進め方が定石です。労務費の転嫁率が特に低いという実態もあるため、材料費と労務費は分けて提示してください。

差異の許容範囲をどう決めるか

すべての差異を追いかけると分析が終わりません。先に許容範囲を決めて、超えたものだけを見る運用にします。

差異の許容範囲の目安と対応
差異率 扱い 対応
±3%以内 正常な揺らぎ 記録するだけ。原因は追わない
3〜10% 要因の特定対象 4分解して、どこが動いたかを確認する
10%超 個別に振り返る 案件単位で関係者を集めて原因を特定する
赤字転落 即時 同種案件の見積を止め、レートと前提を再計算する

±3%を追いかけないと決めることが、運用を続けるための条件です。 すべての案件を精査する体制は中小製造業には作れません。10%を超えた案件だけ振り返る形にすれば、月に数件で済みます。

対策しない差異を決めておく

分解した差異のうち、標準工数に取り込んではいけないものがあります。

  • 仕様変更差異 次回同じ仕様なら発生しません。標準に取り込むと標準工数が膨らみ、見積が高くなって失注します。次回見積には返すが、標準は動かさない
  • 手直しによる工数超過 不良が原因の時間です。これを標準に含めると、不良のコストを客先に転嫁し続けることになります。標準からは外し、品質側の課題として扱う
  • 一過性の材料単価差異 スポットで高値仕入れした分です。継続的な値上がりと区別して、継続分だけレートに反映します

逆に、見積の読み違いによる工数差異は必ず標準に返してください。 ここを直さないと、同じ案件で毎回同じ赤字を出します。

差異を人の責任にしない

運用を壊す最大の要因は、分析結果を評価に使うことです。

工程別に差異を出して特定工程を責めると、その工程は次から安全を見て工数を厚く申告し始めます。 結果として見積全体が高くなり、失注が増えます。差異はゼロに近づきますが、それは実態が改善したのではなく、見積が甘くなっただけです。

見るのは人ではなく、案件と工程の構造です。 「Aさんが遅い」ではなく「この仕様では段取りが読みより長くかかる」という結論に落とせているかどうかが、分析が機能しているかの判定基準になります。

原因の切り分けと責任の追及を同じ場で行わないでください。振り返りの場では「次に同じ案件が来たら見積をどう変えるか」だけを議題にすると決めておくのが実務的です。

分析結果を次の見積に返す

差異分析は、次の見積が変わって初めて利益になります。手順は4段階です。

  1. 4分解した結果を、案件と工程の単位で残す
  2. 工数差異のうち、見積の読み違いだったものだけを抽出する
  3. 抽出した工程の標準工数を、複数案件の実績の中央値で更新する
  4. 更新した標準工数で次の類似案件を積み、また差異を見る

3番目で平均ではなく中央値を使うのは、極端に長かった1件に標準を引っ張られないためです。この循環を月次のサイクルに組み込む方法は製造業の予実管理の仕組み作りで扱っています。

Factory Advance での差異分析

クラウド型の案件管理システム「Factory Advance」は、売上側と原価側のデータが分断されていることを、案件別の利益が見えない根本原因として設計されています。差異分析の観点では次のように働きます。

  • 見積の内訳(工程別の予定工数・材料の見積単価と数量)が案件に紐付いて残る
  • 作業日報とQRコード打刻の実績工数、仕入の実際単価と数量が同じ工番に集まる
  • 見積と実績が並ぶため、4分解の計算に必要な数字が揃った状態で見られる
  • 案件別・顧客別・工程別に集計できるので、差異が特定の客先や仕様に偏っていないかを確認できる

集計と比較を画面上で行う機能は集計・分析機能のページにまとめています。工数を金額に変える賃率の作り方は作業日報の工数を原価に載せる方法、月次決算を待たずに案件別の利益を見る仕組みは製造業のリアルタイム原価管理もあわせてご覧ください。

見積と実績の差を根拠のある形で掴みたい中小製造業の経営者・工場長は、Factory Advance 公式サイト、および収益管理の進め方をまとめた資料をご覧ください。

まとめ

原価差異分析は、差の合計を出す作業ではなく、発生源ごとに分ける作業です。要点を整理します。

  • 差異は材料単価・材料数量・工数・仕様変更の4つに分解する。回収の方向が4つで違う
  • 材料単価差異を実際数量で、材料数量差異を見積単価で計算する。逆にすると二重計上になる
  • 仕様変更差異が工数差異に混ざるのが最も多い誤り。 変更時点で見積を作り直して記録する
  • 分解しないと、客先へ回収できる分を最初から取り逃す。 例では600万円のうち300万円がそれにあたる
  • 許容範囲を先に決める。±3%は追わない。10%超だけ個別に振り返る
  • 仕様変更と手直しの分を標準工数に取り込まない。見積の読み違いだけを返す
  • 差異を人の評価に使うと、工数申告が厚くなり見積が甘くなる。見るのは案件と工程の構造

最初の一歩は、見積書に工程別の内訳を残すことです。総額しか残っていない案件は、どうやっても分解できません。

参考文献

投稿者プロフィール

尾畠 悠樹
尾畠 悠樹
株式会社イーポート 代表取締役

■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
  デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者

兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。