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一人当たり粗利益が増えると労働分配率はどうなる?製造業は「生産性とセット」で見る

結論からいうと、一人当たりの粗利益が増えると、通常は労働分配率は下がります。ただし、粗利益の増加以上に人件費が増えれば、労働分配率は上がります。

「労働分配率が下がった=良いこと」「上がった=悪いこと」と単純に判断してしまうと、経営の打ち手を誤ることがあります。この記事では、製造業の具体例を使いながら、労働分配率と一人当たり粗利益(労働生産性)の関係と、経営分析での正しい見方を解説します。

労働分配率とは

労働分配率とは、会社が生み出した付加価値のうち、何%を人件費として従業員に分配しているかを表す指標です。一般的な計算式は次のとおりです。

労働分配率(%)= 人件費 ÷ 付加価値額 × 100

ここで注意したいのは、厳密には分母は「粗利益」ではなく「付加価値額」だということです。ただし、簡易的な経営分析では、売上総利益(粗利益)を分母に使うこともあります。この記事の計算例も、わかりやすさを優先して粗利益を分母にしています(分母の選び方は記事の後半で詳しく触れます)。

具体例:粗利益が増えると労働分配率はどう変わるか

従業員10人の製造業で、人件費を変えずに売上と粗利益が増えたケースを考えてみます。

項目改善前改善後
売上高1億円1億2,000万円
粗利益5,000万円6,000万円
従業員数10人10人
一人当たり粗利益500万円600万円
人件費総額3,000万円3,000万円
労働分配率(粗利益ベース)60%50%

この例では、

  • 一人当たり粗利益:500万円 → 600万円(20%増加)
  • 労働分配率:60% → 50%(10ポイント低下)

となります。つまり、従業員一人が生み出す粗利益が増えるほど、そのうち人件費が占める割合は小さくなるのです。

なぜこのような関係になるのか

労働分配率の計算式は、分子と分母をそれぞれ従業員数で割ると、次のように書き換えられます。

労働分配率(%)= 一人当たり人件費 ÷ 一人当たり付加価値額 × 100

つまり労働分配率は、次の2つのバランスで決まります。

① 一人当たり付加価値額(労働生産性)

従業員一人が、どれだけの付加価値を生み出したか。

② 一人当たり人件費

従業員一人に、どれだけの給与・賞与・法定福利費などを支払ったか。

たとえば一人当たり人件費を300万円で固定すると、一人当たり粗利益と労働分配率の関係は次のようになります。

一人当たり粗利益一人当たり人件費労働分配率
400万円300万円75.0%
500万円300万円60.0%
600万円300万円50.0%
700万円300万円42.9%
800万円300万円37.5%
1,000万円300万円30.0%
※粗利益を分母とした簡易計算です。

分子(一人当たり人件費)が同じなら、分母(一人当たり粗利益)が大きくなるほど労働分配率は下がります。逆に、粗利益の伸び以上に人件費を増やせば、労働分配率は上がります。冒頭の結論は、この式の形からそのまま導かれるものです。

労働分配率は低いほど良いのか

必ずしもそうではありません。次の2社を比較してみましょう。

項目A社B社
一人当たり粗利益500万円800万円
一人当たり人件費300万円480万円
労働分配率60%60%
一人当たり人件費控除後粗利益200万円320万円

両社の労働分配率はどちらも60%です。しかしB社はA社と比べて、

  • 従業員の待遇が良い
  • 一人当たりの利益創出力が高い
  • 人件費を差し引いたあとに会社に残る粗利益も多い

という特徴があります。労働分配率という比率だけを見ると、この違いはまったく見えません。

つまり、労働分配率を下げること自体を経営目標にするのは適切ではありません。人件費を削って労働分配率を下げても、従業員の待遇が悪化し、採用や定着に悪影響が出れば、長い目で見て会社の力は落ちていきます。重要なのは、労働生産性を高め、その成果を従業員と会社の双方に分配することです。

製造業の経営では「生産性→賃金→利益」の順で考える

私が特に重要だと考えるのは、次の流れです。

労働生産性の向上 → 賃金の上昇 → 企業利益の増加

たとえば、次のような経営改善を考えてみます。

指標改善前改善後増減
一人当たり粗利益500万円700万円+40%
一人当たり人件費300万円360万円+20%
労働分配率60.0%51.4%−8.6ポイント
一人当たり人件費控除後粗利益200万円340万円+70%

この会社では、

  1. 従業員の給与を20%増やした
  2. 一人当たり粗利益を40%増やした
  3. その結果、労働分配率は60.0%から51.4%に下がった
  4. 人件費を差し引いて会社に残る粗利益は70%増えた

という結果になっています。賃上げをしたにもかかわらず労働分配率が下がり、会社に残る粗利益も大きく増えました。生産性の伸びが賃上げの伸びを上回っていれば、従業員にも会社にもメリットのある改善になるということです。

なお、ここでいう「人件費控除後粗利益」は営業利益ではありません。実際の営業利益を求めるには、人件費以外の販管費(地代家賃、減価償却費、広告宣伝費など)も差し引く必要があります。

注意:「粗利益」の定義で労働分配率の意味は変わる

製造業で労働分配率を計算するとき、もう一つ必ず確認しておきたいのが「粗利益」の中身です。社内で「粗利」と呼んでいる数字が、次のどちらを指しているかで、計算結果も経営上の意味も大きく変わります。

呼び方計算方法労働分配率に使うときの特徴
限界利益(付加価値に近い)売上高 − 材料費・外注費などの変動費労務費がまだ差し引かれていないため、「生み出した価値のうち、どれだけを人に分配したか」を素直に表せる
売上総利益売上高 − 製造原価(材料費・労務費・製造経費)製造現場の労務費がすでに差し引かれているため、分子に全社の人件費を入れると二重に効いてしまい、数値が実態からずれやすい

製造業では、人件費の多くが製造原価の「労務費」に入ります。売上総利益を分母にすると、分母からはすでに現場の労務費が引かれているのに、分子には現場の労務費も含む人件費全体を入れることになり、労働分配率が実態より高く出がちです。

そのため製造業では、売上高から材料費・外注費などの外部購入費を差し引いた「付加価値額(限界利益)」を分母にするほうが、分配のバランスを正しく読み取れます。どちらの定義を使う場合でも、期ごとに定義を変えず、同じ計算方法で推移を追うことが大切です。

FactoryAdvanceで管理するなら

FactoryAdvanceの収益分析機能で管理するなら、次の4つのKPIをセットで見ることをおすすめします。

KPI計算式経営上の意味
一人当たり付加価値額付加価値額 ÷ 従業員数労働生産性
一人当たり人件費人件費 ÷ 従業員数従業員への分配
労働分配率人件費 ÷ 付加価値額分配のバランス
一人当たり営業利益営業利益 ÷ 従業員数会社の収益力

製造業では、さらに時間当たり付加価値額(付加価値額 ÷ 総労働時間)を管理すると、現場の改善活動と経営成果を結び付けやすくなります。

たとえば、設備稼働率の向上、段取り時間の短縮、不良率の低減といった取り組みが、それぞれどの程度付加価値を増やしたのかを分析できます。「改善活動は頑張っているのに、利益につながっているかわからない」という状態を抜け出す手がかりになります。

まとめ

  • 一人当たり粗利益(付加価値)が増えると、人件費が同じなら労働分配率は下がる
  • 粗利益の伸び以上に人件費が増えれば、労働分配率は上がる
  • 労働分配率が同じでも、一人当たりの生産性と待遇には大きな差がありうる
  • 製造業では、分母に売上総利益ではなく付加価値額(限界利益)を使うと実態を読みやすい

労働分配率は、単独で評価するのではなく、労働生産性とセットで評価する必要があります。目指すべきは「労働分配率を下げる経営」ではなく、「労働生産性を高めて、給与も利益も増やす経営」です。

よくある質問

労働分配率は何%くらいが適正ですか?
業種や規模、計算方法(付加価値額ベースか粗利益ベースか)で大きく変わるため、一律の正解はありません。他社の数値と比べるより、自社の推移を同じ計算方法で追い、労働生産性と一人当たり人件費がどう動いた結果なのかを確認することが大切です。
労働分配率が上がってしまいました。悪いことですか?
必ずしも悪いとは限りません。賃上げをした結果であれば、従業員への分配を増やしたことになります。問題になるのは、粗利益(付加価値)が伸びないまま人件費だけが増え、会社に残る利益が減っている場合です。一人当たり粗利益と一人当たり人件費の両方の推移をあわせて確認してください。
製造業では、粗利益と付加価値のどちらを分母にすべきですか?
分配の実態を見るなら、売上高から材料費・外注費などの外部購入費を引いた付加価値額(限界利益に近い考え方)を分母にするのがおすすめです。売上総利益は製造原価に含まれる労務費がすでに差し引かれているため、そのまま使うと労働分配率を正しく読めないことがあります。どちらを使うにしても、毎期同じ定義で計算することが重要です。

投稿者プロフィール

尾畠 悠樹
尾畠 悠樹
株式会社イーポート 代表取締役

■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
  デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者

兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。