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正味工数とは?段取工数・付帯工数との違いと現場での測り方

「1本仕上げるのに3時間かかった」という報告のうち、実際に材料を削っていた時間はどれくらいでしょうか。多くの工場で、この内訳は誰も把握していません。正味工数はこの内訳を分けるための言葉で、製品の形や性質を実際に変えている時間を指します。ここを他の時間と分けずに原価を積むと、見積は毎回ぶれ、改善は的外れなところに向かいます。本記事では、正味工数と段取工数・付帯工数の線引き、現場での測り方、そして正味比率を上げることが利益に結びつく条件と結びつかない条件を整理します。

正味工数とは何か

正味工数とは、製品に直接価値を付加している作業に費やした工数です。切削で削っている時間、溶接でビードを置いている時間、部品を組み付けている時間がこれにあたります。その作業をやめると製品が完成しない時間、と言い換えることもできます。

現場で「作業時間」と呼ばれているものは、通常この正味工数だけではありません。材料を機械にセットする時間、治具を交換する時間、図面を探す時間、次工程へ運ぶ時間がすべて含まれています。正味工数という言葉が必要になるのは、この塊を分けないと何も判断できないからです。

分けずに原価を積むと、次のことが起こります。同じ部品を同じ人が同じ機械で作っても、ロットサイズが違えば1個あたりの時間が変わります。段取りは1ロットに1回しか発生しないためです。この構造を知らないまま「前回は1個30分だった」と見積を置くと、小ロットの案件で必ず赤字になります。

正味・付随・段取・付帯の4つに分ける

工数は、性質の違う4種類に分解できます。この4分類が正味工数の話の中心です。

工数の4分類と線引き
区分 内容 具体例 価値を付加するか 減らせるか
正味工数 製品の形や性質を変えている時間 切削、溶接、曲げ、組付け する 工法や条件の変更でのみ減る
付随工数 正味作業に必ず付いてくる作業 材料のセットと取り外し、寸法測定、バリ取り しない 治具や自動化で減らせる
段取工数 ロット単位で発生する準備と後始末 治具交換、プログラム呼び出し、試し加工、清掃 しない 手順の標準化と外段取り化で大きく減る
付帯工数 作業の周辺で発生する時間 運搬、図面や材料を探す、手直し、記録、打合せ しない 仕組みの見直しで最も減らせる

この4つを足したものが実働工数です。さらに実働工数と就業時間の差が、手待ちや非作業の時間になります。

迷いやすい線引き

現場で判断が割れるのは次の3つです。あらかじめ社内で決めておかないと、集計するたびに数字の意味が変わります。

  • 寸法測定は正味か付随か。製品の形を変えていないので付随に入れます。ただし全数検査が客先要求で必須の工程では、独立した工程として扱ったほうが実態に合います
  • 手直しはどこに入るか。付帯です。正味に混ぜてはいけません。 手直しを正味に入れると、不良が多いほど正味比率が上がるという逆転が起きます
  • 試し加工は段取りか正味か。段取りです。1ロットに1回発生する準備の一部だからです

なぜ4つに分けないと原価が読めないのか

分類が必要な理由は、4つの工数が案件の条件によって別々に動くからです。

工数を分けていない現場と、分けている現場
実働工数しか取っていない現場 4分類で取っている現場
ロットが小さいと赤字になる理由が分からない 段取工数が1ロットに1回だと分かっている
「あの機械は遅い」で議論が終わる 遅いのは加工か、段取りか、探し物かが分かる
改善のテーマが現場の頑張りになる 改善のテーマが仕組みと治具になる
見積は前回実績のコピー 数量に応じて段取りと正味を別々に積める
手直しの多さが原価に埋もれる 手直し時間が独立して見える

見積の観点では、段取工数と正味工数を別々に持っていることが決定的です。見積式が「段取時間 + 加工時間 × 数量」の形になっていれば、数量が変わっても根拠を持って金額を出せます。実働工数を数量で割った平均値しか持っていない工場は、この式が作れません。

正味工数はどうやって測るか

正味工数を測るというと、ストップウォッチを持って現場に張り付く方法が思い浮かびますが、中小製造業でこれを続けるのは現実的ではありません。実務では次の順序が回ります。

  1. まず段取りと正味を分けて打刻する。作業開始の打刻を「段取り開始」と「加工開始」の2つに分けるだけで、最も大きな塊が分離できます
  2. 付帯工数は理由コードで拾う。運搬・探す・手直し・手待ちを選択式の中断理由として日報に持たせます
  3. 付随工数は当面は正味に含めておく。材料のセットと取り外しを厳密に分けようとすると入力が破綻します。ここを分けるのは、正味比率の改善に本気で取り組む段階になってからで十分です
  4. 代表的な工程で数回だけ実測する。日報の粒度では取れない付随工数を、年に数回のサンプリングで補正します

最初から4分類すべてを日報で取ろうとしないでください。 段取りと正味を分けるだけで、原価計算に必要な情報の大半は揃います。入力項目の設計と粒度の決め方は作業日報を「作業記録」から「利益データ」に変えるにまとめています。

正味比率をどう読むか

正味比率は次の式で出します。

正味比率 = 正味工数 ÷ 実働工数 × 100

多品種少量・個別受注の工場で実際に測ると、この値は思っているより低く出ます。1品物や小ロットが中心の現場では、段取りと付帯が実働の半分近くを占めることが珍しくありません。

正味比率の読み方
正味比率 実態として起きていること 最初に手を付ける場所
70%以上 同じ品物をまとまった数で流している 正味そのもの(工法・切削条件・工具)
50〜70% 多品種少量として標準的な水準 段取りの外段取り化と標準化
40〜50% 段取り回数が多いか、探し物と運搬が多い 段取り手順と、図面や材料の置き場
40%未満 手直しか手待ちが慢性化している疑い 中断理由の内訳を先に見る。比率の改善は後回し

重要なのは、正味比率の絶対値を他社と比べないことです。何を正味に含めるかの定義が違えば数字は簡単に10ポイント動きます。見るべきは自社の時系列と、工程間の相対比較です。

比率が40%を切っている場合、比率を上げにいく前に中断理由の内訳を確認してください。手直しと手待ちが原因なら、それは工数配分の問題ではなく品質と工程計画の問題です。

正味工数だけを増やそうとすると失敗する

正味比率が低いと分かると、「正味を増やそう」という方向に議論が向かいます。ここに2つの落とし穴があります。

ロットをまとめれば比率は上がるが、資金繰りは悪くなる

段取りは1ロットに1回なので、ロットサイズを2倍にすれば1個あたりの段取時間は半分になり、正味比率は上がります。数字上は改善です。

しかし、まとめて作った分はすぐには売れない在庫になります。材料費は先に出ていき、入金は先送りになります。正味比率という単一の指標を追うと、リードタイムが伸び、仕掛在庫が増え、資金繰りが悪化するという結果になりかねません。正しい方向は逆で、段取り時間そのものを短くして小ロットのまま流せるようにすることです。進め方は段取り替え時間の短縮で扱っています。

空いた時間を埋める仕事がなければ、利益は1円も増えない

こちらがより本質的な落とし穴です。正味比率を上げると、同じ実働工数でより多く作れるようになります。ただしそれが利益になるのは、増えた能力を埋める受注がある場合だけです。

受注が変わらないまま能力だけ増えれば、増えるのは手待ち時間です。原価低減の活動が利益に結びつかない典型が、この形をしています。工数の削減は、それ単体では会社の付加価値を増やしません。増えた能力で何を作って売るかまで含めて初めて、投資として成立します。

判断は工場全体で行ってください。ある工程の正味比率が上がっても、その工程がボトルネックでなければ工場の生産量は1個も増えません。改善の対象を選ぶ順序についてはスループット会計の考え方が参考になります。

正味比率が10ポイント動くと利益はいくら変わるか

数字で置いてみます。直接作業者10名の工場を想定します。

  • 年間の実働工数: 10名 × 1,800時間 = 18,000時間
  • 現在の正味比率: 55% → 正味工数 9,900時間
  • 段取りの標準化と探し物の削減で、正味比率を 65% まで上げられたとする

正味工数は 18,000 × 65% = 11,700時間となり、年1,800時間分の能力が増えます。

この1,800時間が利益になるかどうかは、受注があるかどうかで完全に変わります。

正味比率を55%から65%に上げた場合の増分計算
前提 増えた能力の使い道 年間の効果 実態
受注を1,800時間分ふやせた 増産して売る **+1,080万円** 正味時間あたりのスループット6,000円 × 1,800時間
受注は変わらない 手待ちが増える **0円** 工数は減ったが付加価値は増えていない
受注は変わらないが外注を内製化した 外注に出していた分を自社で作る **+540万円** 外注費の削減分がそのまま付加価値になる
受注は変わらず残業を削減した 残業時間を減らす **+90万円** 割増分のみ。金額は小さい

同じ改善でも、増えた能力の使い道によって効果は0円から1,080万円まで振れます。 正味比率の改善を現場だけのテーマにすると、上から2行目の「工数は減ったが付加価値は増えていない」状態で終わります。改善に着手する前に、増えた能力を何に使うかを決めておいてください。

内製化に振り向ける選択肢は、多くの中小製造業で最も確実です。外注費はそのまま社外に流出している費用なので、受注を増やさなくても付加価値が増えるという点で条件が緩いためです。

Factory Advance での工数の記録

クラウド型の案件管理システム「Factory Advance」は、作業日報とQRコード打刻の実績を工番に紐付けて集計します。工数を分けて記録するうえでは次の点が効きます。

  • 段取りと加工を別の実績として打刻でき、工番別・工程別に分けて集計できる
  • 中断理由を選択式で残せるため、手直し・手待ち・運搬が正味から切り離される
  • 見積工数と実績工数が案件ごとに並ぶので、段取りと正味それぞれの読み違いが見える
  • 蓄積した実績から、次回見積を「段取時間 + 加工時間 × 数量」の形で積める

工数をどの粒度で集めるか、集めた実績が原価にどうつながるかは作業日報機能のページにまとめています。 分けて測った工数を賃率で金額に変える手順は作業日報の工数を原価に載せる方法で扱っています。実績工数を見積に返す進め方は特注品の見積精度の上げ方、工程の待ち時間まで含めて見るならリードタイム短縮の方法もあわせてご覧ください。

工数の内訳を掴んで見積と現場改善の両方に効かせたい中小製造業の経営者・工場長は、Factory Advance 公式サイト、および収益管理の進め方をまとめた資料をご覧ください。

まとめ

正味工数は、実働工数の中から「製品の形や性質を変えている時間」だけを取り出した数字です。要点を整理します。

  • 工数は正味・付随・段取・付帯の4つに分かれ、それぞれ案件の条件で別々に動く
  • 段取りと正味を分けて持てば、見積を「段取時間 + 加工時間 × 数量」の形で積める
  • 測定はストップウォッチではなく、段取りと加工の打刻を分けることから始める
  • 正味比率は他社と比べない。定義が違えば10ポイント簡単に動く。見るのは自社の時系列
  • 比率が40%を切るときは、比率ではなく手直しと手待ちの内訳を先に見る
  • ロットをまとめれば比率は上がるが、在庫と資金繰りが悪化する。減らすべきは段取り時間そのもの
  • 空いた時間を埋める仕事がなければ、正味比率が上がっても利益は増えない

最初にやることは、作業開始の打刻を「段取り開始」と「加工開始」の2つに分けることです。これだけで、次の見積の根拠が変わります。

参考文献

投稿者プロフィール

尾畠 悠樹
尾畠 悠樹
株式会社イーポート 代表取締役

■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
  デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者

兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。