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設備1時間当たりの限界利益とは?利益の高い製品を優先しても儲からない理由と生産計画の決め方

結論からいうと、設備の稼働時間に限りがある工場では、製品1個当たりの利益ではなく「設備1時間当たりの限界利益」で優先順位を決めるのが正しい判断です。1個当たりの利益が多い製品でも、設備を長く使うなら、同じ時間でより多く稼げる製品に負けることがあります。この記事では、情報処理技術者試験の計算問題を題材に、1個当たりの金額で判断すると何を見誤るのか、現場の生産計画にどう応用するのかを整理します。

「利益が多く残る製品を優先して作れば、工場全体の利益も増える」。一見すると当然の考え方です。ところが、機械や熟練者の時間に上限がある場合、製品1個当たりの金額だけで判断すると、同じ時間を使いながら利益が少ない組合せを選んでしまうことがあります。大切なのは、限られた設備時間を使って、どれだけの利益を生み出せるかという視点です。

製品AとB、どちらを優先して作るべきか

令和7年度秋期の情報処理技術者試験(高度試験 午前Ⅰ 問29)では、次の条件で製品AとBを製造・販売したときの年間の最大利益が問われています。

問題の条件(製品AとB)
項目 製品A 製品B
販売単価 30,000円/個 25,000円/個
変動費 18,000円/個 10,000円/個
製造時間 8時間/個 12時間/個

機械の年間使用可能時間は延べ15,000時間。年間の固定費は、製品A・Bにかかわらず15,000,000円です。

出典:IPA「令和7年度 秋期 高度試験 午前Ⅰ 問29」。問題文を要約し、表の見出し・単位表記を一部調整しています。選択肢は省略しています。原問題へのリンクは記事末尾の参考文献に掲載しています。

まずは「1個売ると、いくら残るか」を確認する

最初に、販売単価から1個当たりの変動費を引きます。変動費とは、生産・販売数量に応じて増減する費用のことで、材料費や外注加工費をイメージしてください。

製品A:30,000円 − 18,000円 = 12,000円/個

製品B:25,000円 − 10,000円 = 15,000円/個

販売単価から変動費を引いた金額を、1個当たりの「限界利益」といいます。限界利益は最終的な利益ではありません。ここから固定費をまかない、残った金額が利益になります。

売上高 − 変動費 = 限界利益

限界利益 − 固定費 = 利益

固定費は、製品を何個作っても変わらない費用です。工場の家賃、設備の減価償却費、正社員の給与などがこれにあたります。固定費は製品に「配賦」して引くのではなく、限界利益の合計で「回収」するものだと考えると、以降の計算が素直に読めます。この考え方の背景は一倉定式直接原価計算で詳しく整理しています。

1個当たりで見ると、Bの限界利益はAより3,000円多くなります。「それならBを作ろう」と考えたくなりますが、ここで製造時間も確認する必要があります。

見落としやすいのは、設備を使う時間

Aは1個を8時間で作れますが、Bは12時間かかります。Bは1個当たりの限界利益が多い一方で、設備を長く使う製品です。そこで、同じ時間を使った場合の金額にそろえて比較します。

製品A:12,000円 ÷ 8時間 = 1,500円/時間

製品B:15,000円 ÷ 12時間 = 1,250円/時間

設備1時間当たりでは、Aのほうが250円多く限界利益を生み出します。同じ24時間で比べると、違いがはっきりします。

同じ24時間を使った場合の限界利益
製品 24時間で作れる数 限界利益の合計
製品A(8時間/個) 3個 3個 × 12,000円 = 36,000円
製品B(12時間/個) 2個 2個 × 15,000円 = 30,000円

どちらも24時間ですが、Aのほうが6,000円多く残ります。なお、ここでの「1時間当たり」は比較のための換算であり、1時間で製品が完成するという意味ではありません。

年間の機械時間を、Aに使うとどうなるか

この問題には、販売数量の上限や「Bを一定数量は作る」といった条件がありません。そのため、時間当たりの限界利益が高いAに全ての機械時間を使うのが最も利益の大きい計画になります。

15,000時間 ÷ 8時間/個 = 1,875個

12,000円 × 1,875個 − 15,000,000円 = 7,500,000円

最大利益は750万円。試験の正解は「イ」です。Bだけを作った場合と比較してみましょう。

年間15,000時間をどちらに使うかの比較
年間の比較 Aだけを作る Bだけを作る
使用する機械時間 15,000時間 15,000時間
製造・販売数量 1,875個 1,250個
限界利益 2,250万円 1,875万円
固定費 1,500万円 1,500万円
利益 750万円 375万円

機械時間も固定費も同じですが、利益には375万円の差が出ます。設備をどれだけ動かすかに加えて、何を作るために動かすかが重要だと分かります。「稼働率は高いのに儲からない」という状態は、この「何を作るために動かすか」の選び方で起きていることがあります。

製造現場では「どの工程が詰まっているか」を見る

試験問題では「機械」が1種類でしたが、実際の工場では、切断、加工、溶接、塗装、検査など、複数の工程を経て製品が完成します。そのため、製品全体の製造時間だけで判断せず、工場全体の生産量を制限している工程に注目します。このような工程を「ボトルネック」と呼びます。

例えば、加工機には余裕がある一方で、塗装工程に仕事が集中しているとします。この場合、各製品が塗装工程を何時間使うかが重要です。余裕のある加工機の時間で比較しても、工場全体の生産量は変わりません。比較の基本形は次のようになります。

製品1個当たりの限界利益 ÷ その製品がボトルネック工程を使う時間

今回の制約は機械の使用可能時間でした。現場では、特定の設備の時間、熟練作業者の作業時間、材料の使用量などが制約になる場合もあります。まず「何が足りないために、生産を増やせないのか」を確認し、その不足しているものの1単位当たりで限界利益を比べます。

ボトルネックがどこにあるかは、思い込みと違うことが少なくありません。工程間の仕掛かりや手待ちの時間から見つける方法はリードタイム短縮とボトルネックの正体で、工程計画に落とし込む考え方は「儲かる工程計画」の立て方で扱っています。

「時間当たりが高い製品だけ作る」でよいとは限らない

実務には、試験問題にない条件があります。例えばAを年間1,000個までしか販売できないなら、それ以上作り続けても売上にはつながりません。Bには十分な需要があるとすると、次の組合せになります。

  1. 時間当たりの限界利益が高いAを、売れる上限の1,000個まで作る → 8,000時間を使用、残り7,000時間
  2. 残りの時間でBを作る → 583個(4時間余り)

このときの利益は、12,000円 × 1,000個 + 15,000円 × 583個 − 15,000,000円 = 約575万円です。Aだけを作れる場合の750万円には届きませんが、Bだけを作る375万円より200万円多く残ります。優先順位は時間当たりの限界利益で決め、数量は販売可能数で区切るのが基本の手順です。

時間当たりの限界利益と販売可能数量に加えて、次のような条件も生産計画に影響します。

  • 納期。時間当たりが低くても、納期の迫った案件を後回しにはできない
  • 段取り替え。製品を切り替えるたびに設備時間が消える
  • 材料の入荷時期と最低ロット
  • 不良や手直し、保守停止による時間の目減り
  • 取引先との関係。短期の数字だけで受注を断ると、翌年の仕事に響く

複数の工程が同時に制約となる場合、一つの指標で順位を付けるだけでは最適な組合せを決められません。時間当たりの限界利益は、生産計画を判断するための重要な材料の一つとして使います。

原価表の「原価」を、そのまま変動費にしない

この計算を自社で試すときに、最初につまずくのが変動費の取り方です。原価表の「原価」には、配賦された固定費が含まれている場合があります。そのまま変動費として扱うと、限界利益が実態より小さく出て、本来は時間当たりで稼げている製品を「儲からない」と誤って判定します。

生産・販売数量に応じて増減する費用だけを変動費として区別してください。中小製造業なら、材料費と外注加工費を変動費とみなし、自社の労務費と製造経費は固定費側に置くのが実務的です。製造原価の内訳は製造原価とは、配賦の有無で判断がどう変わるかは粗利か付加価値かで整理しています。

もう一つの落とし穴は、時間のほうです。計画上は8時間でも、段取りや手直しを含めた実績は10時間かもしれません。その場合、Aの時間当たり限界利益は1,500円から1,200円に変わり、Bの1,250円を下回ります。標準時間で計算した順位と、実績時間で計算した順位が入れ替わることは珍しくありません。比較に使う時間の範囲(段取りを含めるか、手直しを含めるか)を製品間でそろえ、実績を確認することが欠かせません。

なお、設備の時間に単価を付けて原価に積む方法(チャージレート)は、この記事の「時間当たり限界利益」とは目的が異なります。前者は見積や原価計算のため、後者は限られた時間をどの製品に配分するかを決めるためのものです。チャージレートの考え方は設備費チャージレートの計算方法をご覧ください。

原価と作業時間を、同じ製品・案件で確認する

この考え方を使うには、金額と時間の両方が必要です。しかも、同じ製品・同じ案件について両方がそろっていなければ割り算ができません。代表的な製品や案件をいくつか選び、次の情報を並べてみてください。

時間当たり限界利益を出すために確認する情報
確認する情報 確認したいこと
販売価格と変動費 販売によっていくら残るか
工程別の予定時間と実績時間 どの工程を、実際にどれだけ使ったか
段取り・手直しの時間 見積りに含まれていない負荷がないか
設備・作業者の空き時間 どこに生産能力の制約があるか
受注数量と納期 何を、いつまでに作る必要があるか

5つのうち、最も集まりにくいのは工程別の実績時間です。日報が紙で、月末にまとめて転記している工場では、製品別・工程別の時間が実態からずれます。入力の粒度は最初は工程単位で十分で、負荷の集中している1〜2工程から始めれば現場の手間はほとんど増えません。日報を時間のデータとして使う方法は作業日報を「作業記録」から「利益データ」に変えるにまとめています。

次の生産計画では「この製品はいくら残るか」に加えて、「いま最も忙しい工程の1時間で、いくら残せるか」を確認してみてください。原価と工程実績を結び付けることで、優先して作る製品や改善すべき工程が見えやすくなります。

Factory Advance で時間当たりの限界利益を見る

Factory Advance は、中小製造業の個別受注・多品種少量生産に向けた生産管理クラウドです。金額と時間を別々の帳票で集めるのではなく、同じ案件番号に紐づけて集める設計になっています。

  • 受注時に案件番号を発行し、見積・受注・発注・作業実績・請求までを1本の番号でつなぐ
  • 案件に紐づいた材料費と外注加工費を自動集計し、販売価格との差(限界利益)をそのまま算出
  • タブレット入力の作業実績から、案件ごと・工程ごとの実績時間を収集
  • 工程ごとの負荷を見て、どの工程に仕事が集中しているか(ボトルネック)を把握
  • 案件別・製品別・取引先別に、限界利益と作業時間を並べて比較

工程ごとの負荷と予定・実績時間の見方は工程管理機能のページ、集計した数字をどう画面で見るかは集計機能のページにまとめています。

費用は、環境構築費がスモール20万円・スタンダード40万円、月額がスモール3万円・スタンダード5万円(いずれも税抜)です。アカウントは20件が標準で付属します。注文書のAI-OCRと生成AIから社内データを直接扱うMCP連携はスタンダードに標準搭載で、従量課金はありません。図面のAI-OCRはスタンダード以上の有料オプション(月額1万円)として提供しています。

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まとめ

設備の時間に限りがあるなら、製品の優先順位は1個当たりの利益ではなく「設備1時間当たりの限界利益」で決めます。試験問題では、1個当たりの限界利益が3,000円多い製品Bより、設備を短く使う製品Aのほうが時間当たりで250円多く稼ぎ、年間の利益には375万円の差が出ました。現場に応用するときは、機械全体ではなく工場の生産量を制限しているボトルネック工程の時間で割ること、販売可能数量や納期で数量を区切ること、原価表の配賦済み原価を変動費と混同しないこと、計画時間ではなく実績時間で確認することの4点を押さえてください。まずは代表的な製品を3つ選び、限界利益と、最も忙しい工程の実績時間を並べて割り算するところから始められます。

参考文献

問題の条件と数値を基に独自の解説を作成しています。実務への応用例は原問題には含まれません。

よくある質問

限界利益と粗利(売上総利益)は何が違いますか?
限界利益は、売上高から変動費(材料費・外注加工費など、数量に応じて増減する費用)だけを引いた金額です。粗利は売上原価を引くため、配賦された労務費や製造経費も差し引かれています。生産計画の優先順位を決めるときは、配賦の置き方で金額が動かない限界利益を使うほうが判断がぶれません。
ボトルネック工程がどこか分からない場合はどうすればよいですか?
工程の前に仕掛かりがたまっている場所、残業が常態化している設備や作業者、納期遅れの原因として最も多く挙がる工程が候補です。まずは候補の1〜2工程だけ予定時間と実績時間を記録し、空き時間がほとんど無い工程を制約として扱ってください。
時間当たりの限界利益が低い製品は、受注をやめるべきですか?
必ずしもそうではありません。ボトルネック工程に空き時間があるなら、時間当たりが低くても固定費の回収には貢献します。やめる判断が必要になるのは、その製品がボトルネックの時間を占有して、より時間当たりの高い製品を作れなくなっている場合です。販売可能数量や取引先との関係もあわせて判断してください。

投稿者プロフィール

尾畠 悠樹
尾畠 悠樹
株式会社イーポート 代表取締役

■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
  デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者

兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。