生産管理システムの課題はどこか|4つの段階で原因を切り分ける
生産管理システムを入れたのに、納期は相変わらず読めない。原価も月末にならないと出ない。そんな悩みを抱える中小製造業は少なくありません。うまくいかない原因の多くは、システムの機能ではなく、課題の分け方にあります。たとえば「原価が出ない」という同じ課題でも、実績が記録されていないのか、記録が案件に結び付いていないのか、出た数字を誰も見ていないのかで、打つ手はまったく違います。課題を記録・整理・確認・判断の4つの段階に分けると、原因の場所と、最初に手を付けるところがはっきりします。
見えている課題を並べるだけでは、いつまでも片付かない
課題の洗い出しをすると、たいてい20項目くらいの箇条書きができあがります。「進捗が分からない」「在庫が合わない」「見積が担当者の勘」「引き合いの対応が遅い」。並べた瞬間はやった気になりますが、この20項目は着手できません。粒度がバラバラで、しかも大半が別の項目の結果だからです。
たとえば「原価が締めてみないと出ない」は、それ自体が原因ではありません。現場の実績が入っていないから出ないのか、実績は入っているが案件と結び付いていないから出ないのか、両方あるのに集計する担当が月末にしか手を付けないから出ないのか。この3つは見えている課題が同じでも、打ち手がまったく違います。前の2つは仕組みの問題ですが、最後の1つは仕組みを入れても直りません。
導入そのものでつまずく典型的なパターンは生産管理システム導入の失敗と対策に整理してあります。この記事で扱うのは、その手前にある「何を直そうとしているのかが定まっていない」状態のほうです。
生産管理システムの課題を4つの段階に分ける
課題を、情報が流れる順番で4つの段階に分けます。現場で起きたことを記録し、案件ごとに整理し、決まった人が確認し、その数字で判断する。前の段階が欠けていると、後の段階は絶対に成り立たない順番になっています。
生産管理システムの課題を4つの段階に分ける
| 段階 | その段階でやること | 課題の現れ方 | 欠けたまま放置すると |
|---|---|---|---|
| 記録 | 現場と事務で起きたことを、その場で記録する | 実績が入らない、まとめ書きされる、時刻が実態と合わない | 後の3つの段階すべてが推測で動く |
| 整理 | 記録を案件・工程・品目に結び付けて保管する | 同じ案件が別名で登録される、工程の粒度が人によって違う | 集計しても合算できず、数字が信用されない |
| 確認 | 誰がいつ見て、何を判断するかを決める | 画面はあるが誰も開かない、月末にだけ見る | 紙の日報や Excel が画面に変わっただけで、仕事の進め方も利益も変わらない |
| 判断 | 出てきた数字で、受注・人員・価格を決める | 数字は出るが、結局は勘で決めている | 改善が現場の努力だけに寄り、利益が動かない |
多くの会社が「課題」と呼んでいるものは、確認と判断の段階に表れたものです。ところが手を打とうとするのは記録の段階です。この食い違いが、導入したのに何も変わらないという結末を作ります。
逆に、記録の段階だけを直して満足してしまう会社もあります。端末を配って記録は取れるようになったが、そのデータを誰がいつ見るかが決まっていない。この状態は、記録の手間だけが現場に増えて、会社には何も返らない状態です。現場の記録を利益の判断に変えるまでの流れは作業日報を利益データに変える方法で扱っています。
見えている課題から、原因のある段階を突き止める
自社の課題の原因がどの段階にあるかは、見えている課題から逆にたどれば分かります。会議で出てきた言葉を、そのまま次の表に当ててみてください。
見えている課題から原因のある段階を突き止める早見表
| よく出る課題 | 確かめること | 原因のある段階 |
|---|---|---|
| 進捗を聞かれても即答できない | 工程の開始と終了が、その日のうちに記録されているか | 記録 |
| 原価が締めてみないと出ない | 実績工数が案件番号に結び付いているか | 整理 |
| 集計するたびに数字が違う | 同じ作業を人によって別の工程名で記録していないか | 整理 |
| 画面はあるが誰も見ていない | 見る人と見る曜日が決まっているか | 確認 |
| 赤字案件が決算で初めて分かる | 進行中の案件で予定超過を見る場が月内にあるか | 確認 |
| 数字は出るが受注の判断は勘のまま | 受けるか断るかを、どの数字で決めると宣言してあるか | 判断 |
この表で複数の段階に印が付いた場合は、一番前の段階から順に手を付けます。後の段階の課題は、前の段階が直った時点で消えることが珍しくないためです。「集計するたびに数字が違う」は整理の段階の問題ですが、そもそも入力が半分しか入っていない会社では、工程名を統一しても数字は合いません。
課題を切り分けるときの手順
早見表に当ててみた例
従業員18名の金属加工の会社で、課題の洗い出しをした場面を考えます。会議で出たのは次の6つでした。
- 進捗を営業に聞かれても、現場に行かないと答えられない
- 原価が月末の締めまで分からない
- 同じ品物の加工時間が、人によって倍近く違って見える
- 生産管理システムの画面を開くのは事務の1人だけ
- 赤字の案件が決算のときに初めて分かる
- 見積は社長の勘で決めている
早見表に当てると、1は記録、2と3は整理、4と5は確認、6は判断の段階に原因があるように見えます。ところが一つずつ確かめていくと、2の原価が出ない理由は、実績工数の半分が日報に書かれていないことでした。3の加工時間のばらつきも、段取りを含めて書く人と含めない人がいるためでした。どちらも、記録の段階の決め事がそろっていないことが根っこにあります。
この会社が最初に手を付けるべきなのは、記録の段階です。「主要3工程で、段取りと加工を分けて、その日のうちに記録する」と決めるだけで、2と3はかなり片付きます。4から6は、記録がそろってから取りかかっても遅くありません。最初から6つ全部に手を打っていたら、画面を見る会議や見積の新しいルールまで同時に作ることになり、どれも中途半端に終わっていたはずです。
前の段階を飛ばしてツールを入れると何が起きるか
記録と整理の段階を飛ばして、確認のためのツールだけを入れた会社では、決まった順番で同じことが起こります。
導入から1か月目、記録が7割ほど入ります。2か月目、忙しい工程から記録が抜け始めます。3か月目、抜けた分を事務が現場に聞いて回って埋めるようになります。4か月目、聞いて回る時間が惜しくなり、事務が推測で埋めます。5か月目、推測が混ざった数字を現場が見て「実態と違う」と言い、誰も画面を見なくなります。
この経過で失われる一番大きなものは時間でも費用でもなく、数字への信用です。一度「あの数字は当てにならない」が定着すると、後から入力が揃っても見てもらえません。信用を取り戻すには、精度が上がったことを何度か証明して回る必要があり、最初から順番どおりに進めるより高く付きます。
順番を守るとは、全部を完璧にしてから次へ進むことではありません。扱う範囲を狭くして、その範囲だけ4つの段階を最後まで通すという意味です。全工程ではなく主要な3工程だけ、全案件ではなく金額の大きい案件だけ。狭くても4つの段階が通っていれば、そこから出た数字は判断に使えます。要件を決める段取りそのものは生産管理システム導入の7ステップにまとめてあります。
直す価値のある課題を増分で選ぶ
原因のある段階が分かったら、次は金額です。ここで案件単位の効果だけを見ると判断を誤ります。会社全体で見て、手元に残る金額がいくら増えるかで比べます。
従業員20名、うち現場15名。年間の受注が120件、平均受注金額80万円の会社で考えます。日報の清書と実績の問い合わせに、事務が月12時間を使っています。年間120件のうち12件が赤字で、1件あたりの赤字が15万円、年間180万円の損失です。
効果は次の3つです。どの段階まで直すかによって、出る効果が変わります。
効果を1つずつ見る(月あたり)
| 効果 | 出る条件 | 計算 | 月あたり |
|---|---|---|---|
| ① 日報の清書と問い合わせが減る | 記録の段階を直す | 事務の12時間 × 時給2,500円 | 3万円 |
| ② 赤字案件を途中で手当てできる | 判断の段階まで通す | 赤字12件の半分を1件8万円改善 = 年48万円 | 4万円 |
| ③ 浮いた時間が加工に回る | 判断の段階まで通し、受注がある | ①の12時間を時間あたり付加価値6,000円で数え直した差(12時間 × 3,500円) | 4.2万円 |
どこまで直すかに応じてこの3つを足し合わせると、毎月の効果になります。効果は毎月積み上がっていくので、その累計が初期費用に届いた月を回収とします。初期費用は100万円とします。
効果の累計と回収(初期費用100万円で試算)
| 直す範囲 | 毎月の効果 | 6か月の累計 | 12か月の累計 | 24か月の累計 | 100万円を回収する月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 記録の段階だけ。実績は溜まるが誰も見ない | ① 3万円 | 18万円 | 36万円 | 72万円 | 34か月目 |
| 判断の段階まで通す。週1回、進行中の予定超過を見る | ①+② 7万円 | 42万円 | 84万円 | 168万円 | 15か月目 |
| 判断の段階まで通し、浮いた時間が加工に回る | ①+②+③ 11.2万円 | 67.2万円 | 134.4万円 | 268.8万円 | 9か月目 |
同じ100万円の投資でも、記録の段階で止めると回収に3年近くかかります。判断の段階まで通せば、15か月で回収できます。一倉定氏が繰り返し説いたように、損益は常に会社全体で見るもので、現場の作業が楽になったことと会社の利益が増えたことは別の話です。③も同じ理屈で、浮いた12時間が加工に変わるには受注が要ります。受注が埋まらないなら③は出ず、この12時間は残業代の一部が減るだけです。そのとき回収は9か月目から15か月目へ延びます。
この試算に使った時間あたり付加価値、赤字案件の件数、1件あたりの赤字額は、いずれも自社の数字に置き換えてください。特に赤字案件の件数は、多くの会社で実際より少なく見積もられています。案件別の利益を出してみると想定の倍あった、という結果は珍しくありません。案件別に利益が漏れる場所は製造業の利益漏洩を防ぐ方法で扱っています。
「課題が解決した」と言える状態を先に決める
着手する前に、終わりの形を1行で書いておきます。書けない課題は、まだ課題として成立していません。
- 悪い例: 進捗を見える化する
- 良い例: 主要3工程について、当日の作業終了時点で工程の開始と終了が記録されている案件の割合が9割を超える
段階ごとに、終わりの形の書き方の例を挙げます。
- 記録の段階: 主要3工程で、作業当日のうちに開始と終了が入っている作業の割合が9割を超える
- 整理の段階: 実績工数のうち、案件番号が付いていないものが月に5%を下回る
- 確認の段階: 毎週月曜の朝礼のあと10分で、予定工数を2割以上超えた進行中の案件を全件確認している
- 判断の段階: 時間あたり付加価値が自社の平均を大きく下回る案件は、受ける前に社長が確認する運用が回っている
数字は自社の実情に合わせて決めて構いません。大切なのは、誰が見ても達成したかどうかを判定できる書き方にすることです。
良い例には、範囲と、測り方と、達成の線が入っています。この形にしておくと、3か月後に「だいぶ良くなった」で終わらせずに済みます。もう1つの効き目は、達成できなかったときにどこで止まったかが分かることです。割合が5割で止まったなら、それは記録の段階がまだ通っていないという事実であって、次の投資を判断する材料になります。
予定と実績を突き合わせて回す仕組みは予実管理の仕組み作りに、工程の進捗をどう持つかは工程進捗の見える化に整理してあります。
課題リストが長い会社ほど進まない
課題を20項目挙げた会社と、3項目に絞った会社では、1年後の進み方がはっきり分かれます。項目が多いほど網羅的で良さそうに見えますが、実際には次の3つが起こります。
第一に、着手順を決める会議が終わりません。20項目に優先順位を付ける議論は、それぞれの担当が自分の困りごとを主張する場になり、結論が出ないまま次回に持ち越されます。
第二に、同時に手を付けて全部が中途半端になります。人が足りない会社ほど、5つを並行させて全部が7割で止まります。7割の仕組みは使われません。
第三に、成功したかどうかが分からなくなります。20項目のうち何項目が片付いたかで測ろうとすると、簡単な項目から消化されていき、肝心の段階が手つかずのまま「半分終わった」という報告になります。
絞り方は単純です。早見表で一番前の段階に印が付いた課題を1つだけ選び、それ以外は「今期はやらない」と書いて残しておきます。捨てるのではなく、順番待ちの列に並べる。この扱いにしておくと、現場から「あの件はどうなった」と言われたときに答えられます。
段階ごとに、最初の一手をどう置くか
選んだ段階によって、最初の1週間でやることが変わります。
見えている課題にそのまま手を打つ場合と、段階で切り分けた場合の最初の一手
| 見えている課題にそのまま手を打つ | 段階で切り分ける | |
|---|---|---|
| 進捗が見えないので進捗管理ソフトを探す | ▶ | 主要3工程で、当日中に実績が入る形を作る |
| 原価が出ないので原価計算ソフトを探す | ▶ | 案件番号の付け方を1枚の紙に決めて統一する |
| 数字を見ないので朝礼で共有する | ▶ | 見る人と曜日を決め、超過案件だけを一覧にする |
| 赤字が多いので値上げを検討する | ▶ | 赤字案件の共通点を実績から3つ挙げてから決める |
| 全部まとめてシステムで解決したい | ▶ | 範囲を狭くして、その範囲だけ4つの段階を通す |
記録の段階なら、端末の台数より先に入力にかかる秒数を測ります。1件30秒を超えていると、忙しい日から抜け始めます。項目を減らして15秒に収まるところまで削ってから配ります。測り方は簡単で、現場の人に実際に入力してもらい、時計で測るだけです。項目は「案件番号・工程・開始・終了」の4つに絞り、数量や不良の数は後から事務が補えるようにしておくと、15秒に収まりやすくなります。
整理の段階なら、案件番号の付け方を1枚に決めます。ここが人によって違うと、後から何を入れても合算できません。1枚に書く内容は、案件番号の桁と意味、枝番の付け方、工程名の一覧の3つです。工程名は現場で実際に使っている呼び名から選び、似た名前はどれか1つにまとめます。「旋盤」「NC旋盤」「旋削」が混ざっていると、同じ作業が3つに分かれて集計されます。番号の考え方そのものは工番とは何かで扱っています。
確認の段階なら、会議を増やさずに既にある会議の議題を1つ差し替えます。新しい会議体を作った改善は、忙しくなった月に真っ先に消えます。たとえば週1回の工程会議があるなら、そのうち10分を「予定工数を超えた進行中の案件」の確認に充てます。見る一覧は、全案件ではなく超えた案件だけに絞ります。全件の一覧を見せると、どこが問題かを探すだけで時間が終わります。
判断の段階なら、受注を受けるか断るかの線を数字で1本引きます。線の引き方の一例は、時間あたり付加価値です。受注金額から材料費と外注費を引き、見込みの作業時間で割ります。この値が自社の平均を大きく下回る案件は、受ける前に社長が確認すると決めておきます。断るためではなく、工場が混んでいる時期に、安い仕事で時間を埋めてしまわないためです。線が引けない理由が「数字が出ていないから」なら、それは前の段階の課題です。
Factory Advance で4つの段階をつなげる
Factory Advance は、個別受注・多品種少量生産の中小製造業向けの生産管理クラウドです。記録から判断までを1本の流れとして持てるように作ってあります。
- 現場のタブレットやスマートフォンから工程の開始と終了を記録し、案件番号に結び付けて保管する
- 受注・工程・実績・原価を同じ案件番号で串刺しにし、集計時に突き合わせる作業をなくす
- 進行中の案件で予定工数を超えたものを一覧で出し、決算を待たずに手を打てる状態にする
- 見積と実績の差異が次の見積の根拠として残る
工程まわりの機能は工程管理機能に、生産管理システム全体の考え方は生産管理システムにまとめています。自社に合うタイプの選び方は生産管理システムの選定を参照してください。
まとめ
生産管理システムの課題が片付かない一番の理由は、見えている課題と、その原因を区別せずに扱っていることです。課題を記録・整理・確認・判断の4つの段階に分け、印が付いた段階のうち一番前のものを1つだけ選ぶ。終わりの形を測れる言葉で書く。直す価値があるかを、会社全体の増分で計算してから着手する。この3つで、20項目の箇条書きは1つの実行可能な仕事になります。
今日からできる一手は、直近の会議で出た課題を10個書き出し、早見表に当ててみることです。10個のうち何個の原因が記録の段階にあるかで、自社がどこから始めるべきかが決まります。4つの段階をつないだ先にどんな運用になるかは、製品紹介の資料にまとめてあります。
参考文献
- 中小規模製造業者の製造分野におけるDX推進のためのガイド(IPA 独立行政法人 情報処理推進機構)
- 2025年版ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省、2025年)
- 2024年版 中小企業白書(中小企業庁、2024年)
投稿者プロフィール

-
株式会社イーポート 代表取締役
■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者
兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。
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