製造業の120対20の法則|利益を生む顧客・赤字案件の見分け方
「売上は増えている。工場も忙しい。それなのに、思ったほど利益が残っていない」。個別受注型の中小製造業では、この状態が珍しくありません。原因は材料価格や人件費の上昇だけとは限らず、一部の顧客や案件が生み出した利益を、別の顧客や案件が食いつぶしている可能性があります。この利益の偏りを表すのが、海外で「120対20」と表現される利益構造です。本記事では、この構造の読み解き方と、工番別原価・顧客別収益性を使って赤字の理由を特定し、取引を組み替えるまでの手順を整理します。
120対20の利益構造とは
上位の顧客や案件が会社の最終利益を超える利益を生み、中間層はほぼ損益ゼロ、下位の顧客や案件が赤字を発生させる。その差し引きで、会社全体としては最終利益100%に落ち着く。これが120対20の利益構造です。
120対20の利益構造の全体像
| 顧客・案件のグループ | 全体に占める割合の例 | 生み出している利益 |
|---|---|---|
| 利益創出層 | 上位 約20% | 全社最終利益の約120% |
| 改善余地層 | 中位 約60% | おおむね損益ゼロ |
| 利益毀損層 | 下位 約20% | 全社最終利益の約20%相当を失う |
| 会社全体 | 100% | 最終利益 100% |
「利益が120%になる」という表現には違和感があるかもしれません。ここでいう100%は、赤字案件の損失を差し引いた後の最終利益です。上位の顧客が最終利益以上を稼ぎ、その一部が下位顧客の赤字で失われるため、途中段階では120%に達することがあります。
すべての会社で必ず120%・20%になるという統計法則ではありません。海外の顧客別収益性分析の研究では、上位40%の顧客が年間利益の130%を生み、中間55%がほぼ損益ゼロ、下位5%が年間利益の30%相当を失わせていた事例が紹介されています。上位20%が120%を生む会社もあれば、上位10%が150%を生む会社もあります。数字そのものではなく、利益が一部に偏り、別の仕事によって失われているという構造のほうが重要です。
120%の利益が生まれる仕組み
年間の最終利益が1,000万円、取引先50社の製造会社で顧客別に利益を集計したとします。
年間最終利益1,000万円の会社での顧客別利益の例
| 顧客グループ | 顧客数 | グループ利益 | 最終利益に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 上位顧客 | 10社 | +1,200万円 | 120% |
| 中位顧客 | 30社 | 0万円 | 0% |
| 下位顧客 | 10社 | ▲200万円 | ▲20% |
| 会社全体 | 50社 | +1,000万円 | 100% |
計算は 1,200万円 − 200万円 = 1,000万円 です。上位10社は1,200万円を稼いでいますが、下位10社の赤字200万円を補填した結果、会社に残るのは1,000万円になります。
この50社を利益額の高い順に並べ、上位から累積利益率を計算すると、利益がどこで積み上がり、どこで削られるかが1本の線で見えてきます。

上位10社で一気に120%まで駆け上がり、中位30社ではほぼ水平に推移し、下位10社で100%まで引き戻される。この「山を越えて下る」形が、120対20の利益構造の実像です。中位層は利益を生んでいないだけで害はないように見えますが、会社の生産能力を確実に消費しています。
この会社が売上高だけで顧客を評価していれば、赤字を出している顧客に気づけません。むしろ売上が大きく工場を忙しくしてくれる顧客を「重要顧客」と認識している可能性すらあります。
80対20の法則との違い
売上や粗利が少数の顧客・製品に集中する構造は、製造業の80対20の法則とABC分析で扱いました。120対20の利益構造は、その分析をもう一段進めたものです。
| 80対20の法則(ABC分析) | 120対20の利益構造 | |
|---|---|---|
| 売上・粗利・受注件数を見る | ▶ | 顧客別・案件別の利益を見る |
| 成果が一部に集中していることが分かる | ▶ | 一部が利益を生み、別の一部が失わせていることが分かる |
| ABC分析、構成比分析 | ▶ | 顧客別収益性分析、累積利益分析 |
| 優先すべき顧客・製品を特定する | ▶ | 赤字の原因と改善対象を特定する |
| 判断軸は売上額・粗利額 | ▶ | 判断軸は材料費・工数・設備費・個別対応費を含めた利益 |
80対20の分析で分かるのは「上位顧客が売上の多くを占めている」ことまでです。120対20の視点では、その売上から実際に利益が残っているか、どの顧客が利益を減らしているか、どのような取引条件が赤字を生んでいるかまで踏み込みます。売上や粗利の偏りを把握したうえで顧客別・案件別の利益を確認する順序が効果的です。
なぜ売上の大きい顧客が赤字になるのか
個別受注生産では、同じ売上金額でも案件ごとに必要な手間が大きく異なります。次のような取引には、帳簿上で見えにくいコストが発生しています。
- 見積依頼が多く、受注率が低い
- 1回の発注数量が少なく、注文回数が多い
- 段取り替えが頻繁に発生する
- 図面変更や仕様変更が多い
- 短納期や割り込み対応が多い
- 検査項目や提出書類が多い
- 特別な梱包や指定便が必要になる
- 手直しや再製作が繰り返される
- 納品後の問い合わせやクレーム対応が多い
- 請求や入金確認に手間がかかり、支払サイトが長い
これらは材料費や外注費のように請求書として届くわけではありません。設計担当者の打ち合わせ時間、営業担当者の見積時間、現場の段取り時間、品質担当者の検査時間として、社内の人件費や間接費に埋もれます。だからこそ「売上が大きいから優良顧客」とは限らないのです。現場で消えていくこうした時間の捉え方は、製造業の利益漏洩を防ぐ方法でも扱っています。
顧客別利益の前に、工番・案件別の利益を計算する
個別受注型では、いきなり顧客単位で利益を計算するのではなく、まず工番・案件単位で原価と利益を集計します。基本式は次のとおりです。
案件利益 = 売上高 − 材料費 − 外注費 − 労務費 − 設備費 − 案件固有の対応費
集計の考え方は次のようになります。材料・外注費は発注や仕入のデータを工番に紐付けます。労務費は加工・組立・設計・検査の作業時間に時間単価を掛けます。設備費は機械の稼働時間と段取り時間に設備単価を掛けます。検査・手直し・再製作といった品質関連費は実績時間と使用材料を記録し、見積・仕様変更・特急対応などの顧客対応費は対応回数か時間で把握します。梱包や指定便の物流費は案件別の実費を集計します。工番に原価を集める具体的な手順は、個別原価計算とはで詳しく整理しています。
すべてを最初から精密に計算しようとすると、現場の入力負担が大きくなり運用が止まります。まずは材料費・外注費・作業時間・設備時間という主要原価から始め、金額や発生頻度の大きい個別対応費を後から追加していく方法が現実的です。
間接費を売上比率で一律配賦しない
顧客別利益を計算するとき、販管費や間接費を売上高の割合で配賦する方法がよく使われます。売上構成比10%の顧客に間接費全体の10%を負担させるやり方です。計算は簡単ですが、実際の手間を反映できません。
売上1,000万円を月1回まとめて発注する顧客と、同じ売上1,000万円を毎日の小口注文で積み上げる顧客では、受注処理・段取り・納品・請求にかかる手間がまったく違います。それでも売上比率で配賦すれば、両者に同じ間接費が割り当てられてしまいます。
そこで使うのが、取引回数や作業時間による配賦です。見積業務なら「見積件数 × 1件当たりの標準時間」、受注処理なら「注文回数 × 1回当たりの処理時間」で計算します。顧客ごとの活動時間に時間単価を掛けて間接費を割り当てれば、実際のサービス提供コストに近づきます。この時間単価の考え方は、時間あたり付加価値の計算方法と同じ土台の上にあります。
120対20の利益構造を調べる5つのステップ
顧客別収益性を分析する5ステップ
期間の決め方。1か月では大型案件や季節変動の影響を受けやすいため、少なくとも6か月、できれば1年分のデータを使います。長期案件が多い会社では、受注日ではなく案件の完了日か売上計上日を基準にそろえます。
実績原価を使う。見積原価ではなく、実際に発生した原価で計算します。見積時点では利益が出る予定だった案件が、加工時間の超過・仕様変更・手直し・再製作によって実績では赤字になっているケースは珍しくありません。
集計の粒度。同じ顧客の中に採算の良い製品と悪い製品が混在していることがあります。「A社は赤字」と結論づける前に、「A社向けの特定製品だけが赤字なのか」を顧客×製品で確認します。
累積利益率の計算。顧客を利益額の大きい順に並べ、上位からの累積利益 ÷ 全社最終利益 × 100 で求めます。途中で120%や150%まで上がり、その後100%へ下がるなら、後半に並ぶ顧客が利益を減らしています。全社利益がほぼゼロか赤字の場合は割合が極端になるため、累積利益率ではなく顧客別利益額と赤字総額で確認します。
赤字の理由を切り分ける。赤字顧客を見つけただけでは分析は終わりません。価格が低いのか、見積より作業時間が長いのか、段取りが多いのか、仕様変更や手直しが多いのか。あるいは顧客ではなく自社工程の非効率が原因なのか。ここまで分かって初めて、値上げ・工程改善・取引条件変更のどれを選ぶかを判断できます。
最初から全顧客を細かく分析する必要はありません。直近1年の売上上位20社に絞り、顧客別売上高、材料費・外注費、作業時間と労務費、設備時間と設備費、手直しや特急などの個別対応、そして顧客別の利益額と利益率を集計します。売上順位と利益順位を並べると、「売上2位だが利益では15位」「売上は小さいが利益率が高い」「受注件数は多いが段取り費を回収できていない」といった事実が見えてきます。
3つの顧客グループに対する改善策
3つの顧客グループと基本的な対応
| グループ | 状態 | 基本的な対応 |
|---|---|---|
| 利益創出層 | 安定して大きな利益を生んでいる | 維持・深耕。利益が出ている条件を言語化して横展開する |
| 改善余地層 | 売上はあるが利益がほとんど残らない | 価格・発注方法・ロット・工程・取引条件を見直す |
| 利益毀損層 | 取引によって赤字が発生している | 原因を特定して改善交渉。改善できなければ縮小を検討 |
利益創出層は「なぜ儲かっているか」を分解する
利益創出層は、大切にするだけでは不十分です。ロットがまとまっている、リピート品が多い、図面が安定している、段取りが少ない、適正な価格で受注できている、入金が早い。こうした条件を言語化すれば、新規営業で狙うべき顧客像と、増やすべき案件の特徴が明確になります。
一方で、利益の多くを1社に依存している場合は注意が必要です。収益性が高くても取引停止の影響が大きいため、似た条件の顧客を増やして依存度を下げることが、会社全体で見たときのリスク管理になります。
改善余地層は利益顧客へ移せる可能性が高い
中間層は、条件を少し見直すだけで利益創出層へ移せる余地があります。最低注文数量や最低注文金額を設定する、段取り費を別料金にする、特急料金や短納期料金を設定する、設計変更費や検査費を明確にする、発注書式やデータ形式を統一する、注文を一定期間分まとめてもらう、納品回数を減らす、標準仕様と特別仕様を分ける。値上げだけでなく、顧客の注文方法と自社の提供方法の両方を変えることで、双方に無理のない取引へ再設計できます。
利益毀損層は原因を自社側と顧客側に分ける
赤字の原因がすべて顧客側にあるとは限りません。自社の見積ミス、作業標準の未整備、段取りの非効率、不良や手直しの多さが原因のこともあります。自社で改善できる問題と、取引条件を変更しなければ改善できない問題をまず分けます。工程を改善しても利益が出ず、価格や条件の見直しにも応じてもらえない場合に、初めて受注量の縮小や取引の見直しを検討します。
赤字顧客をすぐに切ってはいけない理由
顧客別利益が赤字でも、すぐ取引を終了するのは危険です。共通固定費の配賦によって赤字に見えているだけの可能性があるためです。
赤字に見える顧客の限界利益と配賦後利益
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上高 | 1,000万円 |
| 材料費・外注費 | ▲700万円 |
| 顧客固有の対応費 | ▲100万円 |
| 限界利益 | +200万円 |
| 共通固定費の配賦 | ▲250万円 |
| 配賦後利益 | ▲50万円 |
配賦後の利益は50万円の赤字です。しかしこの顧客との取引をやめても、工場の家賃、管理者の給与、設備の減価償却費といった共通固定費250万円がすぐ減るわけではありません。取引をやめれば200万円の限界利益を失い、会社全体の利益はかえって悪化します。
判断するときは、取引継続によって固定費の回収にいくら貢献しているかを見る限界利益と、共通固定費まで負担させたうえで長期的に十分な利益を生んでいるかを見る配賦後利益を分けて確認します。あわせて、その取引をやめたときに何が増減するかという増分で考えることが欠かせません。設備や人員に余裕があり代わりの仕事がない状況と、工場が満杯で高収益案件を断っている状況では、同じ数字でも結論が変わります。赤字顧客をやめて空いた時間により利益率の高い案件を受注できるなら縮小の効果は大きく、空いた時間がそのまま遊休時間になるなら条件改善を優先したほうが会社全体の利益は守られます。
だからこそ、この分析の目的は下位20%を切り捨てることではありません。小口注文が多い顧客には注文をまとめてもらう。短納期が多い顧客には特急料金を設定する。仕様変更が多い顧客には変更費を明示する。こうした条件変更によって、赤字だった取引が利益を生む取引に変わります。
Factory Advanceで案件別・顧客別の収益を見える化する
120対20の分析は、案件ごとの売上と原価が同じ工番に紐付いていることが前提です。売上は販売管理システム、材料費はExcel、作業時間は紙の日報、外注費は会計ソフトとデータが分散していると、顧客別利益を集計するだけで何日もかかります。
Factory Advance は、個別受注生産型中小製造業の案件管理クラウドです。見積から受注、発注、工程、納品、請求までを案件単位で管理し、作業日報で記録した工数を収益管理に連動させて、材料費・外注費・労務費・機械費を工番に集約します。製品別・案件別の粗利率や利益率、顧客別・顧客案件別の売上原価分析、限界利益管理、ABC分析などの集計機能にも対応しており、会社全体の利益だけでなく「どの顧客・製品・案件が利益を生んでいるか」を確認できます。工番を軸にしたデータ構造については工番管理システムとはで解説しています。
顧客別の利益を毎月の計画と実績に接続する型は製造業の予実管理の仕組み作り、上位2割の見つけ方は製造業の80対20の法則で扱っています。
120対20の分析は一度実施して終わりではありません。価格改定や工程改善を行った後、本当に利益が改善したかを定期的に確認する必要があります。日々の業務から実績データが蓄積される仕組みがあれば、分析と改善のサイクルを継続しやすくなります。
「忙しいのに利益が残らない」「どの顧客で儲かっているのか分からない」。そんなお悩みをお持ちでしたら、まずは無料の収益管理実践ガイドから、案件別・顧客別の収益を見える化する進め方をご確認ください。
まとめ
120対20の利益構造が示すのは、売上と利益は比例しないということです。一部の顧客や案件が会社の最終利益以上を生み、その利益が別の不採算取引によって失われている可能性があります。
やるべきことは、下位顧客を機械的に切り捨てることではありません。工番・案件別の実績原価を把握し、顧客別・製品別に利益を集計する。そのうえで価格・ロット・発注方法・納期・仕様・工程を見直し、利益が残る取引へ組み替えていく。一倉定氏が説いたように、会社の損益は常に「会社全体で考える」のが正しいのであり、案件単位や顧客単位の有利不利だけで結論を出すと判断を誤ります。
決算書だけを見ていても、どの仕事が利益を生み、どの仕事が利益を失わせているかは分かりません。まずは売上上位20社について、直近1年の案件別利益を集計するところから始めてください。売上順位と利益順位のズレが見えた時点で、次に手を打つべき顧客がはっきりします。
参考文献
- Factory Advance『利益を最大化する!中小製造業向け 収益管理実践ガイド』(株式会社イーポート)
- 一倉定『一倉定の社長学シリーズ⑤ 増収増益戦略』日本経営合理化協会出版局
- A Balanced Scorecard Approach To Measure Customer Profitability(Harvard Business School Working Knowledge)
投稿者プロフィール

-
株式会社イーポート 代表取締役
■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者
兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。
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