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粗利か付加価値か|中小製造業がどちらの数字で判断すべきか

月次試算表には粗利率が出ている。案件別の粗利も計算している。それなのに「この仕事を受けるべきか」「この製品群を続けるべきか」を聞かれると、最後は勘で決めている。多くの中小製造業で起きているこの詰まりは、数字が足りないせいではありません。判断に使っている指標が、その判断に向いていないことが原因です。粗利と付加価値は、どちらも正しい数字です。ただし答えられる問いが違います。

粗利と付加価値はどこが違うのか

粗利は、売上高から売上原価を引いた金額です。製造業の売上原価には、材料費と外注加工費だけでなく、自社の労務費と製造経費が配賦されて入っています。

付加価値は、売上高から外部購入費を引いた金額です。外部購入費とは、材料費と外注加工費のように、社外に支払った分を指します。自社の人件費や設備費は引きません。

粗利 = 売上高 − 売上原価(材料費+外注加工費+配賦された労務費・製造経費)

付加価値 = 売上高 − 外部購入費(材料費+外注加工費)

違いは一点だけです。自社で使った固定費を引いているかどうか。粗利は引いている、付加価値は引いていない。この一点が、後で見ていくように判断の精度を大きく左右します。

付加価値という言葉には「自社が外から買ってきたものに、どれだけの価値を上乗せして売ったか」という意味があります。材料を10万円で買って30万円で売ったなら、20万円が自社の付けた価値です。その20万円の中から人件費を払い、設備の償却を賄い、残りが利益になります。製造原価の3要素の中で、材料費と外注加工費だけが外部購入費にあたり、労務費と製造経費は付加価値の中から支払われる側に回ります。

粗利は配賦のルール次第で答えが変わる

粗利を案件別に出すには、労務費と製造経費をどの案件にいくら割り振るかを決める必要があります。この割り振りが配賦です。そして配賦の基準には、絶対的な正解がありません。

中小製造業でよく使われるのは次の3つです。

  • 作業時間で配賦する。工数に賃率を掛ける方式
  • 直接労務費に比例させて配賦する
  • 売上高の比率で一律に配賦する

どれを選ぶかで、同じ案件の粗利額が変わります。さらに、同じ作業時間基準を選んでも、賃率をいくらに置くかで金額が動きます。賃率は「年間の労務費と製造経費の合計 ÷ 年間の総作業時間」で出しますが、分母に使う稼働率の見込みを5パーセント変えるだけで、賃率は数パーセント動きます。

ここが重要な点です。配賦の置き方を変えると、案件の良し悪しの順位そのものが入れ替わることがある。順位が入れ替わるなら、その順位を根拠にした受注判断は、根拠として弱いことになります。

配賦が悪いと言っているのではありません。決算書を作るにも、金融機関に説明するにも、配賦は必要です。制度として求められる原価計算については原価計算基準との対応を整理した記事があります。問題は、外部報告のために作られた数字を、そのまま社内の意思決定に持ち込んでいることです。

付加価値には配賦がありません。売上高も材料費も外注加工費も、伝票に実額が残っている数字です。誰が計算しても同じ答えになるという性質は、社内で議論するときに効いてきます。

粗利と付加価値の性質の違い
粗利(全部原価計算ベース) 付加価値(付加価値会計ベース)
売上高 − 売上原価 ▶ 売上高 − 外部購入費
自社の労務費・製造経費を引く ▶ 自社の労務費・製造経費は引かない
配賦の基準と賃率の置き方で金額が動く ▶ 伝票の実額だけで決まる
決算・外部報告・金融機関への説明に必要 ▶ 受注判断・値決め・製品群の整理に向く
案件単位で完結して見える ▶ 固定費の回収度合いは別途見る必要がある

付加価値の求め方は控除法と加算法の2通り

付加価値の計算には2つの方法があります。

控除法は、売上高から外部購入費を差し引く方法です。先に示した式がこれにあたります。中小製造業の現場で案件別に見るなら、控除法だけで足ります。必要なデータが受注金額・材料費・外注加工費の3つに収まるからです。

加算法は、付加価値を構成する費目を積み上げる方法です。人件費、賃借料、減価償却費、金融費用、租税公課、そして営業利益を足し上げます。財務省の法人企業統計調査が採用しているのがこの考え方で、業種平均と自社を比べたいときに使います。

2つの方法は、理屈の上では同じ金額に行き着きます。控除法は「いくら稼いだか」を外から見た数字、加算法は「稼いだものを何に配ったか」を内側から見た数字です。

自社の付加価値率(付加価値 ÷ 売上高)を一度計算しておくと、後の判断が楽になります。外注依存の高い加工業なら30パーセント台、設備と自社加工が中心なら50パーセントを超えることもあります。この率が低いということは、売上の多くが素通りしているということで、売上高だけを追っても会社に残る分が増えにくい構造だと分かります。

同じ案件を粗利と付加価値の両方で見る

抽象論では判断が変わりません。3つの案件を並べて計算します。賃率は2,000円/時で配賦しているものとします。

同一案件を粗利と付加価値の両方で評価した比較
項目 案件A 案件B 案件C
受注金額(税抜) 100,000円 100,000円 300,000円
材料費 20,000円 20,000円 90,000円
外注加工費 0円 40,000円 30,000円
自社作業時間 25時間 8時間 80時間
配賦された労務費・製造経費 50,000円 16,000円 160,000円
粗利 30,000円 24,000円 20,000円
粗利率 30.0% 24.0% 6.7%
付加価値 80,000円 40,000円 180,000円
時間あたり付加価値 3,200円/時 5,000円/時 2,250円/時

粗利率で並べると、良い順にA、B、Cです。時間あたり付加価値で並べると、B、A、Cになります。AとBの順位が入れ替わっています。

入れ替わる理由は外注加工費です。案件Bは工程の一部を外に出しているので、自社の作業時間は8時間で済んでいます。外に出した分の付加価値は社外に移りますが、そのかわり空いた17時間で別の仕事を流せます。粗利率はこの「空いた時間」を評価しません。

さらに、配賦の置き方を変えてみます。稼働率の見込みを下げて賃率を2,500円/時に改めると、案件Aの粗利は17,500円(17.5パーセント)、案件Bは20,000円(20.0パーセント)、案件Cは20,000円の赤字になります。賃率を変えただけで、AとBの順位がまた入れ替わりました。案件の中身は何ひとつ変わっていません。

案件Cは、どちらの指標で見ても最下位です。受注金額が3倍あっても、自社の時間を80時間使えば会社への貢献は最も薄い。受注金額の大きさと、会社に残る分の大きさは別物だという事実は、粗利でもある程度は見えますが、時間あたりで見ると桁違いにはっきりします。

固定費は差し引くものではなく回収するもの

なぜ付加価値では自社の労務費と製造経費を引かないのか。固定費の性質を考えると理由が分かります。

人件費は、案件を1つ受けたから増えるものではありません。設備の減価償却費も、工場の家賃も、その月に何を作ろうと金額は決まっています。案件ごとに増減しない費用を、案件ごとに割り振って引き算しても、その案件の判断材料にはならないのです。

固定費の正しい扱い方は、引き算ではなく回収です。月に480万円の固定費がかかる工場なら、その月に稼いだ付加価値の合計が480万円を超えたところから利益が出ます。個々の案件は、この480万円という穴をどれだけ埋めたかで評価する。これが付加価値で考えるということの実質です。

この考え方はスループット会計として体系化されていますが、名前を覚える必要はありません。覚えるべきは「固定費は月額で先に決まっていて、案件はそれを埋める側に回る」という構造だけです。

この構造が分かると、よくある判断ミスが説明できます。粗利率の低い案件を一律に断ると、断った分だけ固定費の穴が埋まらずに残ります。空いた時間に別の仕事が入るなら断る判断は正しい。入らないなら、粗利率が低くても付加価値がプラスである限り、受けたほうが会社の利益は増えます。

回収できているかは「時間あたり」でしか分からない

付加価値の金額だけを見ていると、別の落とし穴に落ちます。先の例で案件Cの付加価値は18万円で、3件の中で最大でした。それでも案件Cは最下位です。80時間という自社の時間を使っているからです。

固定費は時間とともに発生します。人は時間で雇い、設備は時間で償却されます。だから固定費の回収度合いを測るには、付加価値を時間で割る必要があります。

時間あたり付加価値(円/時) = 付加価値 ÷ 自社の作業時間

割った値を、自社のハードルと比べます。ハードルは「月間の固定費 ÷ 月間の総作業時間」で出します。月間固定費480万円、作業者10人で月160時間なら1,600時間となり、ハードルは3,000円/時です。

この3,000円/時と突き合わせると、先の3案件はこう判定できます。案件Bは5,000円/時で大きく上回り、案件Aは3,200円/時でわずかに上回り、案件Cは2,250円/時で下回る。案件Cは、受けるほど固定費の穴が広がることになります。

分母に置く作業時間の集め方、工程をどこまで含めるか、データが揃わないときの仮置きの仕方は、時間あたり付加価値の計算方法に手順をまとめてあります。最初から全工程を正確に取ろうとせず、最も時間のかかる主要工程を仮の分母として置き、動かしながら精度を上げるのが現実的です。

「会社全体で考える」粗利と付加価値の使い分け

どちらか一方を捨てる必要はありません。問いによって使い分けます。

判断の場面ごとに見るべき指標
判断の場面 見るべき指標 理由
決算・金融機関への説明 粗利 制度会計の枠組みで比較されるため
受注を受けるか断るか 時間あたり付加価値 空いた時間の使い道まで含めて評価できる
値上げ交渉の優先順位付け 時間あたり付加価値 どの取引先が時間を食っているかが出る
内製化するか外注に出すか 増分の付加価値 社内の余力の有無で答えが変わる
設備投資の可否 増分の付加価値 固定費が増えた分を回収できるかで見る
製品群の整理 時間あたり付加価値 受注金額の大小に引きずられない

表の後半に出てくる「増分」が、使い分けのもう一つの軸です。増分で考えるとは、その判断によって増える分と減る分だけを拾って比べることを指します。

内製化を例にします。これまで1件4万円で外注していた工程を社内に戻すとします。社内に余力があるなら、増えるのは電気代や消耗品といった変動費だけで、人件費は元から払っています。減るのは外注費4万円。差し引きで会社に残る分が増えます。一方、その工程を社内に入れると他の仕事が押し出されるなら、押し出された仕事の付加価値が減る側に入ります。同じ内製化でも、余力の有無で答えが逆になります。

ここで欠かせないのが、判断の単位を会社全体に置くことです。案件単位で黒字でも、ボトルネック工程を長時間占有して他の案件を止めているなら、会社全体では損をしていることがあります。逆に単体で見れば薄い案件でも、閑散期に固定費を埋めてくれるなら会社全体にはプラスです。部門別や案件別の数字は、会社全体の判断に至るための材料であって、結論ではありません。採算管理を案件別に回すときも、最後は全体に戻して見る習慣が要ります。

月次で回すための最小の運用

指標を切り替えるために、新しい帳票を作る必要はありません。毎月そろえる数字は4つだけです。

付加価値で判断するための月次サイクル
案件別の受注金額と外部購入費を集める
▶
自社の作業時間を案件に紐づける
▶
時間あたり付加価値を算出する
▶
ハードルと比べて次の受注方針を決める

第一に、案件別の受注金額と外部購入費です。受注金額は見積・受注のデータに、材料費と外注加工費は仕入・発注のデータにあります。必要なのは、それらを案件の番号で串刺しにできる状態にすることだけです。工番のような案件番号が受注から請求まで一本で通っていれば、集計はほぼ自動で済みます。

第二に、自社の作業時間です。ここが最もつまずきやすい箇所です。日報が紙で、月末にまとめて転記しているなら、案件別の時間は実態からずれます。入力の粒度は、最初は工程単位で十分です。細かくするほど正確になりますが、現場が入力をやめたら数字は消えます。

第三に、時間あたり付加価値の算出。第四に、ハードルとの比較と、それを踏まえた受注方針の決定です。

月に一度、ハードルを下回った案件を並べて、取引先ごとに原因を見ます。単価が低いのか、想定より時間がかかっているのか、仕様変更を吸収しているのか。原因が分かれば、値上げ交渉の材料にも、工程改善の優先順位にもなります。毎月同じ形で並べ続けることが、精度よりも先に効いてきます。

Factory Advance で同じ実績から粗利と付加価値を出す

Factory Advance は、中小製造業の個別受注・多品種少量生産に向けた生産管理クラウドです。粗利と付加価値を別々に集計するのではなく、同じ実績データから両方を出せる設計になっています。

  • 受注時に案件番号を発行し、見積・受注・発注・出荷・請求までを1本の番号でつなぐ
  • 案件に紐づいた材料費と外注加工費を自動集計し、控除法の付加価値をそのまま算出
  • タブレット入力の作業実績から、案件ごとの自社作業時間を収集
  • 賃率を設定すれば配賦後の粗利も同時に出るため、場面に応じて見る指標を切り替えられる
  • 案件別・取引先別・製品別に時間あたり付加価値を並べ、ハードルとの比較を継続

集計した数字をどう画面で見るかは集計機能のページにまとめています。分母になる作業時間の集め方は、作業日報を「作業記録」から「利益データ」に変えるもあわせてご覧ください。

費用は、環境構築費がスモール20万円・スタンダード40万円、月額がスモール3万円・スタンダード5万円(いずれも税抜)です。アカウントは20件が標準で付属します。注文書のAI-OCRと生成AIから社内データを直接扱うMCP連携はスタンダードに標準搭載で、従量課金はありません。図面のAI-OCRはスタンダード以上の有料オプション(月額1万円)として提供しています。

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まとめ

粗利と付加価値は、優劣ではなく役割の違いです。粗利は配賦を含むため、賃率や基準の置き方で順位が動きます。決算と外部説明には必要ですが、受注の可否や製品群の整理をこの数字で決めると、根拠が揺れます。付加価値は売上高から外部購入費を引くだけなので、誰が計算しても同じ値になります。そのかわり固定費を引いていないので、回収できているかは別に測る必要があります。測り方が、付加価値を自社の作業時間で割った時間あたり付加価値です。月間固定費を総作業時間で割ったハードルと比べれば、その案件が穴を埋めているか広げているかが判定できます。まず1か月分、手元の案件を並べて計算してみることから始めてください。

参考文献

投稿者プロフィール

尾畠 悠樹
尾畠 悠樹
株式会社イーポート 代表取締役

■ ITコーディネーター
■ キャッシュフローコーチ®
■ JRCA認定ISMS審査員補
■ 東京都中小企業向け
  デジタル技術導入促進ナビゲーター
■ 中小企業庁「みらデジ」デジタル化支援者

兵庫県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーを経て2008年に会社設立。業務用システムの受託開発及び中小製造業向けのパッケージの開発・販売を行う。